「グルメ漫画は時代を映す」──グルメ漫画50年の歴史から時代の流れを読み解く

アニメ・マンガ

2018/1/5

『グルメ漫画50年史』(杉村啓/講談社)

 現在、グルメ漫画が花盛りである。書店には特設コーナーが用意され、アニメでも『食戟のソーマ 餐ノ皿』などグルメ漫画を原作としたものが多い。発売予定の新刊コミックを調べれば、何がしかのグルメ漫画が見つかるはずだ。これだけの活況を呈しているが、もちろん急に降ってわいたわけではない。ここに至るまでに積み重ねられた「歴史」というものが当然、存在するのだ。『グルメ漫画50年史』(杉村啓/講談社)を読めば、グルメ漫画の歴史がいかに長く続いてきたかがよく分かる。

 本書によれば、グルメ漫画「祖」は1970年の3作品に求められるという。『突撃ラーメン』(望月三起也/集英社)、『ケーキケーキケーキ』(一ノ木アヤ:原作、萩尾望都:作画/小学館)、『台所剣法』(亀井三恵子/しんぶん赤旗)がそれである。作者に注目してみると、『ワイルド7』が大ヒットした望月三起也氏に『ポーの一族』や『11人いる!』などで知られる萩尾望都氏と、かなりビッグネームの作品だ。『台所剣法』は新聞掲載なので毛色は違うが、7~8コマのショートコミックで、いわゆる「グルメ4コマ」の祖といえるのだとか。

 なぜこの時期にグルメ漫画が登場してきたのかの理由も、本書では分析している。1970年の日本は高度成長期の真っ只中にあり、庶民も経済的な余裕ができて外食にお金が回せるようになった。1968年には牛丼の「吉野家」がチェーン展開を開始し、1970年には初のファミリーレストラン「すかいらーく」1号店が開店している。ここから外食産業はどんどん増えてゆき、そういった世相を反映して誕生したのがグルメ漫画だったのだ。以降もグルメ漫画は次々と描かれ、料理バトルの先駆的作品『包丁人味平』(牛次郎:原作、ビッグ錠:作画/集英社)や寿司職人の成長物語『鉄火の巻平』(大林悠一郎:原作、たがわ靖之:作画/芳文社)などの名作が1970年代に生まれている。

 そしてブームの流れが一気に開花したのが1980年代。現在でも連載の続く代表的なグルメ漫画の多くがこの時期に誕生している。まず押さえておくべきは『美味しんぼ』(雁屋哲:原作、花咲アキラ:作画/小学館)だろう。これまで定番であった料理人が主人公の物語ではなく、新聞社の社員・山岡士郎をメインに据え、さまざまな料理を批評していくスタイルが新しかった。そして『クッキングパパ』(うえやまとち/講談社)も外せない一作だ。料理の腕がプロ級のサラリーマンが主人公で、最近のグルメ漫画に多く見られる「レシピ掲載」タイプの元祖といえるだろう。『美味しんぼ』は休載されて久しいが終了のアナウンスはなく、『クッキングパパ』は現在も連載中であり、息の長い作品となっている。

 この後も『ミスター味っ子』(寺沢大介/講談社)や『孤独のグルメ』(久住昌之:原作、谷口ジロー:作画/扶桑社)などのヒット作を生み出しながら、グルメ漫画は現在に至る。本書の著者・杉村啓氏は「グルメ漫画は時代を映す鏡である」という。1970年代に描かれ始めたグルメ漫画は1980年代に花開き、1990年代の「飽食の時代」と共に黄金期を迎える。やがてバブルが弾け、2000年代には「食の多様化」を受けてさまざまなジャンルのグルメ漫画が登場。2010年代は震災の影響から「家族の絆」を扱った作品が増加したという。グルメ系に限らず、漫画は多分に社会情勢を反映するメディアである。体系だてて全体を俯瞰することは、漫画だけでなく社会の流れを識ることにもなるのだ。「冒険もの」や「学園もの」など漫画のジャンルは多彩なので、それぞれの歴史を追ってみるのも面白いかもしれない。

文=木谷誠