『売れないバンドマン』それでもバンドが辞められないのは――

エンタメ

2018/1/28

『売れないバンドマン』(カザマタカフミ/シンコーミュージック)

 カザマタカフミはバンド、3markets[](通称スリマ)のボーカル兼ソングライターである。かつてイベントで共演したback number、クリープハイプはすでにメジャーデビューを果たし、ヒット曲を次々に生み出すようになった。しかし、スリマはいまだインディーズで活動しており、小さな会場で細々とライブを続けている。カザマは自他共に認める「売れないバンドマン」なのだ。

 カザマが10年以上書きためたブログをまとめた一冊、その名も『売れないバンドマン』(シンコーミュージック)にはむきだしの焦燥感やコンプレックス、苦悩があふれている。しかし、一方で飄々としたユーモアや、音楽界へのひねくれた視線もまざっていて必ずしも気が滅入るような内容ではない。むしろ、「売れていなくても好きなことを続ける」バンドマンの意志に胸を打たれる瞬間も少なくないのだ。

これを読んだらバンドマンがどんな人間なのか大体わかると思うので、
バンドやってる人はやめたほうがいいし、
バンドマンを好きな人はやめたほうがいいし、
バンドマンって可哀想だなって思う人は、
少し優しくしてくれたらいいと思います。

 いきなり自虐モード全開の序文からも分かるように、本書を読む限りカザマは常に悩んでいる。歌が上手くならない、バンドメンバーがすぐに辞めてしまう、お客さんの集め方が分からない…そして、とにかく「売れない」。もともと人見知りのカザマは器用に立ち回ってバンドを売り込むことができず、時間がただ過ぎていく。そして、カザマには「売れないバンドマンあるある」とでも言うべき経験が蓄積されていった。

 ツアー中の移動はもちろん車。しかも、車内ではメンバーが黙々とゲームに興じるか、眠っているだけ。自分たちのライブを見ようとしない対バン相手には腹を立てても、付き合いが悪いので打ち上げには行かない。チケットが完売しなかった会場では「ソールドアウト」の告知を出して、客入りが悪くないように見せかけるべきかどうかで迷う(カザマはこの手法を「ウソールドアウト」と呼ぶ)。10年以上も「売れないバンドマン」を続けていると「あるあるエピソード」には困らないのだ。

 バイト先でバンドマンだと言うと、上司から上から目線で自慢話を聞かされたエピソードは読んでいて胸が痛む。しかし、それから「人生詰んだ」という曲を書こうとしたら間違って「人生結んだ」と書いてしまうオチがつく。「誰かと人生を結びたいんだ」と気づいたカザマは一瞬だけ前向きになるのである。自分自身にも音楽業界にも、世の中全体にもカザマは不満を隠さない。しかし、たまに希望を持てるような出来事とめぐり合えるから、カザマはバンドを続けていく。

 本書の終盤にさしかかると、十数年付き合ってきた彼女との強烈なエピソードが登場する。彼女とカザマはスリマの歌詞にも登場するほど深い絆で結ばれていた。そんな彼女の母親がライブにやって来るのである。娘が大切な青春時代を捧げた「売れないバンドマン」と彼女の母親はどのような会話を交わしたのか。そして、その次に掲載されている驚愕のエピソードも要チェックである。

 カザマを突き動かしているのは「いい音楽を届けたい」という純粋すぎる願いだ。純粋であるがゆえに、商業とは折り合いがつかず、壁にもぶつかる。しかし、カザマの音楽と一緒に文章にも触れれば、「売れないバンドマン」とは「貧乏」で「無名」なだけの存在ではないと気づくだろう。「売れる」「売れない」の二元論で語れない世界もあるのだとカザマは教えてくれる。

 なお、本書には3本の特別対談も収録されている。それぞれ、「売れているバンドマン」である尾崎世界観(クリープハイプ)、「売れない芸人」であるエルシャラカーニ清和、そして「トッププロデューサー」の浅田信一を相手に、「売れないバンドマン」の「表現」への想いが語られているので必読だ。

文=石塚就一