『ダ・ヴィンチ』2018年3月号「今月のプラチナ本」は、谷口ジロー『いざなうもの』

今月のプラチナ本

2018/2/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『いざなうもの』

●あらすじ●

2017年2月に逝去した谷口ジローの未発表絶筆「いざなうもの その壱 花火」(原作:内田百閒)を含む近作を収めた、珠玉の作品集。
【収録作品】
「彼方より」/エッセイ「フランスと私」/「何処にか」その壱・その弐
谷口ジローイラストギャラリー/「魔法の山」前編・後編
「いざなうもの その壱 花火」(未発表絶筆)

たにぐち・じろー●1947年鳥取県出身。『父の暦』『遥かな町へ』『ふらり。』『孤独のグルメ』(久世昌之:原作)など著書多数。91年『犬を飼う』で第37回小学館漫画賞審査委員特別賞を受賞したほか、手塚治虫文化賞マンガ大賞、アングレーム国際漫画祭最優秀脚本賞など受賞。2011年フランス政府芸術文化勲章・シュヴァリエが授与される。2017年2月11日没。

『いざなうもの』書影

谷口ジロー
小学館BIG COMICS SPECIAL 1111円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

異界へと読者をいざなう魔書

昨年2月に亡くなったマンガ家、谷口ジロー。その死によって未完に終わった作品を収めた本が2冊同時に刊行された。その1冊が本書『いざなうもの』である。短編集で、表題作は内田百閒の名作『冥途』から「花火」をマンガ化(未完成ページはネーム状態で掲載)。不穏でいて美しい悪夢のごとき百閒の小説世界を、薄墨と鉛筆を用いて絵にしている。ひたすらに静かで、ほの暗く、でもどこか温かな筆致。夢と現実、生と死のあわいをそろそろと歩いていくような筆致を息を詰めて目で追っていくと、異界へといざなわれてしまいそうになる。思えばマンガというものは、絵の力によって読者を現実世界から本の中へ引きずり込むものであって、百閒作品や小泉八雲のマンガ化(本書収録「何処にか」)に晩年の谷口ジローが注力していたのは、異界への導き手を自任していたからかもしれない。

関口靖彦 本誌編集長。同時刊行の『光年の森』の絵も素晴らしいです。『孤独のグルメ』しか谷口作品を知らない人は、まだまだたくさんの美しい絵を見ることができるので、他の谷口作品をぜひ!

 

温かな筆致こそが、その世界に読者をいざなう

昨年、お亡くなりになったニュースを聞いて、何冊か谷口ジローさんの著書を拝読した。その中でも好きだったのが、『遥かな町へ』だった。中年男性が14歳にタイムスリップしてしまうというファンタジックな設定なのだが、実に淡々とした穏やかなストーリーで、主人公の葛藤や諦念も実にリアル。こうした記憶の旅だったら、自分の心の中でも飛び立つことができるかも、と心地よく読み終えたのだが、この『いざなうもの』に所収されている『魔法の山』でも同じような読後感を得た。こちらは母思いの少年が特別な力をもったサンショウウオを助け出す代わりに、母の病気を直してほしいと願う物語だ。谷口氏の温かい筆致は読み手をそのまま包み込み、その世界にぐっと引き寄せる。見たこともないのに、なぜか懐かしいマンガ。この郷愁感こそが谷口氏の大きな魅力なのだろう。

稲子美砂 「連続ドラマW『バイバイ、ブラックバード』豪華座談会」を担当。伊坂さんの『僕の作品を映像化するベストの解答』という発言で大盛り上がり。各々方の思い入れが光る、熱気溢れる座談に!

 

薄墨と鉛筆での作品をもっと見たかった!

ただただ美しい。「いざなうもの」の薄墨と鉛筆が織りなすシンプルでいて印象的な作画に目を奪われる。薄墨の濃淡ってこんなにきれいなんだなぁと、物語を追うよりも絵に目がいってしまう。下描きで掲載となった残りのページも、素敵。谷口ジローさんは「まだ完成じゃないから!」と思われるかもしれないけど、鉛筆のみの下描きは、独特のかっこよさがありますよね。女性の襟足がふわりとあやしげに描かれているのも色っぽくていい。ページを開いて飾っておきたい作品でした。

鎌野静華 久々に右手の腱鞘炎が再発。最初は「うう~地味に不快」くらいなのに悪化速度が速い……。昨日は我慢できたのに今日はもう叫びたいくらい辛い!

 

生身の人間が物を書く、という行為の原点

谷口さんを巨匠だと言うのは簡単だ。でも本書には、そんな谷口さんを最晩年まで創作に向かわせた“ほんの小さな願い”が託されていると感じた。各収録短編には言葉にならないもの、人知を超えたものが登場して、物語の入り口に立つ。谷口さんが作画を務めた『孤独のグルメ』の井之頭五郎もそうだが、よくわからないけど良さそうなもの、その余白を人はこんなにも楽しめるのだ。本書を読み終えようとしたとき、最後に登場するメッセージに触れれば、あなたの読書観が変わるかもしれない。

川戸崇央 北尾トロさんが還暦を迎えられました。お祝いに出張旅行をプレゼント、というつもりは全くなかったのですが、今月は湯河原へと旅立っております。

 

季節の変わり目で心によみがえる

「プラチナ本」で初めて原稿を書いた作品が、『ふらり。』だった。大変美しい物語で、〈季節を感じる時間を私も作らねば〉といった文章を書いたような気がする。あれから7年。谷口ジローさんの作品は、季節の変わり目ごとに、ふいに蘇えってくるようになった。春は『ふらり。』を、夏は我が家の柴犬の最期を思い出しながら、『犬を飼う』を。今作もそうだと思う。繊細な描写から感じる美しい日本の風景、季節の匂い、胸に刻まれるセリフの数々。これからも著者の作品を読み続けます。

村井有紀子 塩田武士さん&大泉洋さん『騙し絵の牙』が2018年本屋大賞ノミネート! 書店員の皆様、ありがとうございます! 今年は良い年になりそう!

 

“読破”出来ないマンガ体験を

いろんなマンガを出来るだけたくさん読みたい時には、ネームを読むスピードを上げ、頁をめくる手は休ませない。次へ、次へ、と物語を追い求めるそこにはまさに“読破”と呼ぶべき快感がある。でも、この作品の楽しみ方はまったくの逆。セリフは簡潔で、物語も長くない。けれど、読みすすめていく時間は驚くほど緩やかだ。それは、一枚一コマの画に、読み手を必要なだけ立ち止まらせる引力を感じるから。“読破”ではなくじっくり味わう。そんな奥の深い楽しみがある。

高岡遼 百合特集を担当しました。数々の傑作に触れるたび心が洗われ、無菌室状態に。現実より、理想(妄想)。なかなかの好スタートを切った2018年です。

 

ひれ伏したくなる美しい本

なんてきれいで静かな本なんだろう。と読み終えようとしたとき、巻末に谷口ジローさんの直筆メモが現れる。「たったひとりでもいい 何度も、何度でも、本がボロボロになるまで、読まれるマンガを描きたい」。これを読んで、思わずひれ伏したい気持ちになった。そうか。ここに収められた作品はすべて、こんなにも切実に、渾身の力で描かれたものなんだ。そう思った途端、作品たちが放つ熱に気付く。これからは、谷口さんの作品を読んで育った作家たちが、この想いを継いでいくのだ。

西條弓子 224Pの「この本にひとめ惚れ」で本書の編集さんとデザイナーさんのインタビューを掲載。そちらもぜひ。百合漬けな正月でした。

 

 

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