独特の世界観を生み出すマンガ家・panpanyaの最新作『二匹目の金魚』

マンガ

更新日:2018/3/7

『二匹目の金魚』(panpanya/白泉社)

 誤解を恐れずにいうならば、意味がわからない。けれど、強烈に惹かれてしまう。マンガ家・panpanyaが発表する作品を形容するには、その一言に尽きるだろう。

 本名、生年月日、性別、そのすべてが謎に包まれた異色のマンガ家であるpanpanyaは、2013年3月に『楽園』春のweb増刊の「わからなかった思い出」で商業デビューを果たした。それまで同人活動をベースとしていたpanpanyaの商業デビュー作は非常に高い評価を集め、初の作品集『足摺り水族館』(1月と7月:編集)は、一部書店のみの取り扱いだったにもかかわらず「このマンガがすごい! 2014」のオトコ編にて第14位にランクインするという偉業を達成した。そんなpanpanya、待望の最新作が『二匹目の金魚』(白泉社)だ。本作には19編の短編が収録されており、いずれもpanpanyaが生み出す独特の世界観が炸裂している。

 たとえば表題作である「二匹目の金魚」では、生き物係に就いた主人公がクラスで飼育している金魚を逃してしまったことの顛末が描かれている。いなくなった金魚のことを警察に届け出、やがてたどり着くのは「屋台の巣」と呼ばれる不可思議な空間。そこで見つけた金魚すくいの屋台で、代理となる金魚をすくうことになるのだ。そして、描かれるのはそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない。

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 「かくれんぼの心得」では、かくれんぼに勤しむ主人公が「かくれんぼ講座」に通いその極意を習得し、見事かくれんぼで優勝をするという物語が展開される。「担いだ縁起」では、縁起悪くお守りを落としてしまった主人公が、神社の奥深くにある「お守り工場」を見学させてもらうという不思議なストーリーが描かれる。

 これらのエピソードは、どれも奇妙な読後感を醸し出している。現実的にあり得るきっかけから始まり、その世界はやがて異界へと突入していくのだ。たとえるならば、夢を見ているような読み心地だ。

 そして、いずれもなにやら深いテーマが隠されているような気もするが、はっきりとは明言されない。解釈は人それぞれ。p anpanyaが作り出す不思議な世界をああでもないこうでもないと分析するのも、ただそのままを受け止めるのも自由。それが実に楽しいのだ。

 マンガのなかには明確なテーマ、メッセージ性を持った作品も多い。それらは、ときに読者に押し付けがましい印象を与えてしまうこともある。その点、panpanyaの作品はすべてを読者に委ねている印象を受ける。いうなれば、異国の地で生まれた作家のアートを眺めている感覚に近いかもしれない。フワフワとした世界観に浸り、日常から逃避したい。そんな夜に読むには、まさにうってつけの作品だろう。

文=五十嵐 大