アニメ業界は海賊版にどう対抗? 吉田尚記アナ、アニプレックス執行役員に聞く!

アニメ

公開日:2018/2/23

■正規映像配信サービスの発展が対抗策に

吉田尚記氏(以下、吉田):海賊版対策として正規の映像配信の利便性をもっとアピールするキャンペーンがあってもいいのではないでしょうか。アニメの場合、映像をデジタルコピーされてしまえば正規版と海賊版の差はユーザーサイドからすると、ほとんどないんですよね。

後藤:デジタルコピーの場合には判別難しいところあると思います。

吉田:ですから、かつてはタダ見ができる海賊版ソフトや海賊版サイトで視聴しようというユーザーが多かったのもわかるんです。ただ、現在ではNetflix(ネットフリックス)などの映像配信サービスがいくつも出てきて、その使い勝手の良さは海賊版サイトを圧倒しています。海賊版サイトだと「あれ、3話が見られない」みたいなトラブルがあったところでどうしようもありませんが、ちゃんとした映像配信であれば基本的にそんなトラブルはありませんし、何か問題が発生したとしてもすぐに改善されます。こうしたサービスの充実と豊富なラインナップを見たら、定額制でお金を払ったとしても正規の映像配信サービスを利用したほうが間違いなくアニメをより快適に楽しめる。海賊版でタダ見する習慣がついてしまっている人たちに、そこを訴えるキャンペーンがこれまでなかったと思うんです。

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桶田:確かにそういうキャンペーンで海賊版から正規の映像配信サービスに移るユーザーもいるでしょうが、逆にそれで海賊版サイトを知ってしまう人も出てきて、やぶ蛇になってしまうことも考えられます。今はしっかりした映像配信サービスがいくつもあって、いい意味で競争が熾烈になっているので、ユーザーがそうしたサービスの存在を知る機会も増えています。ですから、自然と正規の映像配信にユーザーが流れていくことがベストで、実際そうした状況も生まれているんじゃないでしょうか。

後藤:そうですね。正規の視聴方法が充実することは潜在的なアニメファンを増やすことにもつながります。すでに日本アニメの映像配信サービスが当たり前になってきたアメリカや中国では日本アニメの浸透度はかなり高まっています。ここ数年、全世界的に日本アニメのコンベンションの動員数は急激に増加しています。それはやっぱり映像配信サービスの隆盛と重なっていると考えています。アニメの視聴は“個の体験”ですが、「これが好き!」という気持ちが生まれると、やっぱり人はそれを分かち合いたくなるものです。新しい作品に共鳴した仲間が集う場としての楽しさが今のコンベンションの盛り上がりを作っているのでしょう。

桶田:IOEA(国際オタクイベント協会)のレポートを見れば、世界各国どこも例外なくコンベンションの動員数が伸びていることがよくわかりますね。

後藤:アメリカではかつて「カートゥーン・ネットワーク」で日本アニメ放送枠が多かったときもアニメ人気が高く、正規のビデオパッケージの売り上げが伸びていました。やはり、一般の方が手軽にアクセスできるメディアで作品を知る環境を構築していくことが、アニメのマーケット全体を拡大し、次の作品づくりの原動力になっていくんだと経験的にも実感していますし、それが最終的には海賊版対策にもつながっていくと思います。ですから、世界で正規版の視聴機会をできるだけ広範にしていくことはもちろん、ビデオパッケージ、各種グッズ、イベント開催といったトータルな提案を各国で続けて、日本と同等のサービスを提供できるようにしていきたいと考えています。

吉田:ただ、そういう環境に恵まれた日本でも海賊版サイトで視聴している人は子どもを含めていっぱいいますよね。

後藤:そこはきちんと各社が足並みを揃えて、マンガ・アニメ海賊版対策協議会でも情報共有や知見の交換をして対応していく必要がありますね。

 かつての海外のファンサブ海賊版は作品を愛するファンが「他に見る方法がない」ということで作ってシェアしていたところもあるんです。実際、その地域で誰もが視聴できる正規版がリリースされたら自ら削除に応じるサイトもありました。しかし、今の海賊版サイトは「自分の好きな作品をみんなに見てもらいたい」という気持ちではなく、違法ゲームやアダルトサイトへのリンク、広告収入などでお金儲けを行っています。彼らが不当に得た収益はクリエイターに還元されず、次の作品づくりにもまったく貢献しないどころか、大きな損害を与えています。そうした海賊版サイトの根本的な問題を訴え続けていくしかありません。

 そして、もうひとつ大切なことは私たち作品の作り手とそれを楽しむファンとの距離をどう縮めていくかということです。私たちが作品をしっかりと盛り上げていくことで良いファンコミュニティが形成されていけば、ファン同士の中でも「海賊版サイトはよくない」という声が出てきて、自然と意識も高まっていく。それはどこの国でも変わらないと思っています。例えば私たちは中国のSNS「微博(ウェイボー)」で公式アカウントを持っているのですが、そこに中国のアニメファンから「私が買ったこのフィギュアは本物でしょうか」なんて問い合わせをいただくことが結構多いんです。やっぱりファンになれば、海賊版や偽物ではなく正規版、本物がほしくなるという心理があるんじゃないかと思います。

吉田:そこが本質を突いている気がしますね。やっぱり正規の映像配信をして一般視聴者が手軽に作品を見られるようにすることは海賊版対策として効果は大きいんですか?

後藤:それが一番大きいですね。それと海外の場合だと、やはりローカルのパートナー企業の力が大きいです。日本から海外にライセンスするときに現地の放送局や配信会社とパートナーシップを組むことで、それぞれが現地のやり方でプロモーションやマーケティングを行って、イベントなどで作品を盛り上げてくれることが一番の啓蒙活動になっていると思います。もちろん、海賊版に対する対応も同時に厳しく行ってはいますが。やっぱり海賊版対策に特効薬みたいなものはなくて、そういう積み重ねでやっていくしかないでしょうね。

吉田:それでファンの意識も変えていくということですね。

後藤:はい。これから「Wakanim」を通じてロシアに映像配信事業を進めていくので、そこではすでに横行している海賊版サイトとの戦いになるんですよ。そこで世界的に人気のフィギュアスケーターのメドベージェワ選手や、クリエイターに応援メッセージをもらったりしてプロモーションを盛り上げているところです。そういった活動を通じて、現地のアニメファンたちに「このサービスは公式で、ここをサポートしてくれることが、各国へのゲスト招聘につながったり、皆さんのアニメライフをより豊かなものにする第一歩になるんですよ」というメッセージを伝えていこうと考えています。