養老孟司が語る“今の日本”と“平成の振り返り”
公開日:2018/3/20
養老孟司氏といえば、400万部を超えるベストセラーとなった「バカの壁」の著者である。そんなベストセラー著者の頭の中にはどんなことが詰まっているのか、気になる方も多いはず。それが分かるのが『半分生きて、半分死んでいる(PHP新書)』(養老孟司/PHP研究所)だ。本書は雑誌『Voice』に掲載されていた原稿をまとめたもので、政治や歴史、世相だけでなく、養老氏の思想や生き方も楽しめる。今回は中でも印象に残ったテーマを、いくつかピックアップしてみた。
■人工知能の時代にヒトは何ができるか
現代は情報化社会で、ヒトの身近には常に優秀なコンピューターがある。膨大な情報が得られるインターネットは都心と地方の格差をなくし、暮らしを便利にしてくれることも多い。しかし、世の中のものが全てデジタル化していくことで、コンピューターがヒトと置き換わる時代がやってきてしまうのではないかと、養老氏は指摘する。
たしかに、近年では、コンビニ店員がロボット化されたり、Siriのような秘書機能アプリケーションソフトウェアと会話が楽しめたりもする。本来であれば、ヒトとヒトが行うようなものごとを、コンピューターがやってのけることも多い。ビジネスの面でも、将来AIに奪われる職業が話題になり、コンピューターにヒトが操られる時代が迫ってきているように感じる。
そんな時代だからこそ、養老氏はヒトがコンピューターの電源を握ることが大切なのだと語る。世の中はどんどん便利になっていく。だからこそ、自分の人生を楽しむためには自分自身をコンピューターに置き換えさせないようにすることが大切だ。コンピューターのような機械は感情を持っていない分、便利に使える。しかし、事務的な対応に慣れていくにつれ、生身のヒトの人間臭さや身勝手さも恋しくなっていくのかもしれない。
■意味のないものにも良さがある
本書の「老人が暮らしにくい世の中」で養老氏は、近年のお葬式には変化が見られてきたと語っている。筆者も前に、ニュースで「ゆうパック送骨」や「ドライブスルー火葬場」といった新しい取り組みを見かけて、驚いた覚えがある。
多くの人々が忙しく動き回っている今の日本では、時代に合わせて古いしきたりが見直されていくことも多い。しかし、何でもかんでも簡略化すればよいのかと言われたら、首をかしげたくなるのではないだろうか。養老氏も本書の中で「人命は尊重されても、人自体はどうなのだろうか」という疑問を投げかけている。もちろん、時代に沿った新しいシステムは興味深く、便利なこともある。現代は結婚式も柔軟化してきているため、フランクなお葬式もありなのかもしれない。時間やお金を多く費やす古風なお葬式は人によって、意味のないもののように思えることもあるだろう。
しかし、こうした意味がなさそうに見えるものごとにも良さはある。情報のような意味があるものごとは気にとめなくても、耳や頭に入ってくる。だからこそ目新しさだけに注目せず、意味がないように見えるものも大切にできるよう、心に余裕を持っていけたらよいのではないだろうか。
養老氏は他にも本書の中で、大阪都構想投票やEU離脱といったテーマを独自の視点で解説したり、平成という時代を振り返ったりしている。ハリーポッターが大ブームになり、ゆとり世代を生み出した平成も残りわずかだからこそ、新しい時代に期待を持ちながら、本書で今の社会を読み解いてみてほしい。
文=古川諭香
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