あなたの部下は幸せですか? 部下の能力を引き出す「大人の語彙力」とは?

ビジネス

2018/4/3

『リーダーの「対話力」ノート』(細谷知司/ぱる出版)

「あなたの部下は幸せですか?」という問いに自信をもって回答できる上司は、一体どれくらいいるだろう。人は命令を受けていやいややるような仕事よりも、自らの発意・モチベーションに基づく業務の方が、圧倒的に高いパフォーマンスを発揮するもの。部下の仕事の進め方が本人にとって幸せなものであれば、それだけ組織全体のアウトプットも高まるということになる。

 部下一人ひとりのポジションやスキルを理解・把握して、それぞれ今より 少しでも幸せにするために重要なのが、上司と部下との「対話力」ではないだろうか。「対話力」、広くいえば「会話力」「コミュニケーション力」の重要性についてはこれまでにも多くの本で頻繁に語られてきたが、「どうやって対話力を向上させればよいのか?」という具体的なテクニックについて踏み込んで説明してくれるのが、本稿で紹介する『リーダーの「対話力」ノート』(細谷知司/ぱる出版)という一冊である。

■対話力アップに必要な「前提条件」「課題点」「基本原則」を整理して解説

 本書では、まず第1章で対話が重視される「前提条件」を説明する。提示されている4つの前提とは、

(1) 働くこと、幸せであること、それぞれについて多様化する価値観
(2)「みんなちがってみんないい」という違いのマネジメント
(3) 指示待ちから、発意ベースが優先される時代
(4)「対話」で知る必要があるのは相手の正体

 である。

 そして第2章では、多くの部下が抱える4つの「課題」について学ぶことができる。

(1)「ネガティブ思考」は実は健全である
(2)「ポジティブ思考」が誤っている場合もある
(3) 極端な「内面化」が進む社会的問題
(4) 根拠なき「万能感」は折れやすい

 続く第3章では、課題を抱えた部下との対話力を飛躍的に向上させる「10の基本原則+1」について解説が施される。

(1)開示する力: 自分を開示する
(2)傾聴する力: 正しく受け止める
(3)伝達する力: 率直に想いを伝える
(4)質問する力: 常に問いかける

 ……と続くわけだが、本書が掲げる10+1の原則とそれぞれのスキルの説明については、わかりやすく説かれているので、ぜひ書籍を手に取って確認していただきたい。

 更に末尾の第4章では、「ワーク/ライフ・バランス に悩むネガティブ気質な女性社員」や「やや自信過剰で誤ったポジティブ思考の若手男性社員」など、あなたの会社にいるかもしれない社員を具体的に想定した物語風の問答集が、解説とともに語られるという構成だ。
 本書から学べる知識や方法論は、読者が自身の環境に置き換えて実践しやすいという点で優れている。そんな本書の気になる内容を、本稿ではもう少し覗いていきたい。

■「雑談する力」も重要。場の空気をどうやって正しくつくり出すか?

山本七平が著書『「空気」の研究』の中で、この国の社会に深くはびこる本音と建前の共存を厳しく批判したのはずいぶんと昔のことですが、残念ながら現状は当時と大きく変わっていません。本書130ページ

 日本の社会には、場の「空気」というあまりに強固な建前が存在すると本書は説いている。会議などで本音に基づく意見をぶつけたせいで、「空気」を読まない人だと思われるようなことも頻繁に起こる。上司の顔色を敏感に観察しながら建前としての票を投じるのだ。勇気を持って「空気を読まない」という選択は、時にはネガティブな評価につながる可能性を今も孕んでいるという。これは経験的にも頷ける話だし、多くの読者もそう感じるだろう。

 だが、部下や同僚の本音を引き出すための雑談が、そういった「空気」に汚染されるリスクだけは何があっても避けなければならないと本書は注意を喚起する。そのために留意すべきこととして、「可能な限り一対一で対話をすることが大切」だと説いている。

上司と部下の関係に、もう一人別の部下が加わる場面を想定してみます。そこでは上司と当該部下の関係に加えて、上司ともう一人の部下、そして部下同士という二つの関係性が生まれることになります。そして特に後者の関係性において、「空気」による汚染の影響が起きやすくなります。

 確かに、ある部下が「自分だけが異質なことを言っているのではないだろうか」と不安がり本音を押し殺しているようでは、生産性が高く幸せな職場環境だとは言えないだろう。

 本稿ではごく一部の紹介のみに留まるが、このようにリーダーとして見過ごせない問題とその解決策が本書では数多く詳述され、そのどれもが具体的なので実践的な解決への道がイメージしやすくなりそうだ。

 働き方改革が叫ばれる今日。単なる仕組みや制度の改革だけでなく、社員を導くリーダーの心構えも時代に即してアップデートしなければなるまい。

文=K(稲)