「科学的っぽい情報」にはトリックが! 大人の心にも刺さる子ども向け教本『説明のトリック』

社会

公開日:2018/4/10

『よく考えて!説明のトリック 情報・ニセ科学』(曽木誠:監修、市村均:著、伊東浩司:絵/岩崎書店)

 現代人を代表して言わせてもらえば、SNSはサイコーだ。投稿を通じて誰とでも気軽に交流できるし、タイムラインを追うだけで知りたい情報も手に入り、流行にだって敏感になれる。情報社会はサイコーだ。テレビ、新聞、ネットニュース、SNSが私たちを支えてくれる。こうしたメディアのおかげで、私たちは情報収集に苦労することなく“なんでも”知ることができる。

 しかし、社会に氾濫する情報のすべてが真実じゃない。誰かが悪意を持って操作した情報が目の前を流れているかもしれない。SNSでデマ投稿が拡散されたり大手報道機関の問題報道があったり、私たちは度々振り回されてきた。彼らとの付き合い方を、そろそろ本気で考える時期に差し掛かっているのだ。

『よく考えて!説明のトリック 情報・ニセ科学』(曽木誠:監修、市村均:著、伊東浩司:絵/岩崎書店)は一見科学的に思える説明や統計の数字など、社会に氾濫する情報にダマされないよう情報リテラシーを身につける必要性を訴えた1冊だ。もともと子ども向けの教本として図書館に置かれた大型書籍だったが、「もっとたくさんの人に読んでほしい」ということで、一般の書店でも購入可能な縮刷版として出版された経緯があるという。

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「子ども向けの教本なら、情報リテラシーを分かりやすく学べるはず」と思いながら手に取った本書。しかし読み進めてみると、かえって色々考えることが出てきた。情報リテラシーを身につけるって何だろう。私は、いや、私たちは情報社会をどう生きていけばいいだろう。分かりやすく紹介しているからこそ、情報社会を生きる私たちのこれからを考えさせられた。

 その前にまずは本書の内容をちょっぴりご紹介しよう。

■情報を発信する側には受け手を上手に誘導する「トリック」が存在する

 現代人の暮らしは「科学」によって支えられている。そのため「科学的な情報」を目の前にすると、その根拠を確かめることなく信じてしまうことがある。たとえばマイナスイオン。一時期大きな話題になったが、その効果が疑われて以降、まるっきり姿を見せなくなった。そういえば、「納豆にダイエット効果がある」という問題報道で騒動が起こったことも、「ゲーム脳」を巡って大論争が巻き起こったことも記憶に新しい。

 私たちは「科学的に聞こえる説明」を「科学的に見せられる」と、簡単にその情報を信じてしまう。メディアで専門家が白衣を着て登場し、専門用語を並べながら説明を始めたら、誰だって「これは科学的だ!」と思う。私もあなたも誰だって、「科学」には弱い。

「科学的っぽい情報」だけでなく、他の誰かの「言葉」にも気をつけなければならない。その最たる例が「伝言ゲーム」だ。ある言葉を次の人へ順番に伝えていき、最後にその言葉を聞いた人が全員に発表して、伝わった言葉のズレを楽しむ。これはまさに「人は情報を正確に伝えることや受け取ることが苦手」という縮図でもある。SNSで大炎上する投稿や芸能人の発言に批判が集まる現象など、その一部は伝え方にミスがあったのかもしれない。

 一方で、言葉巧みに誰かを騙して利用する詐欺師の存在もある。昨今では「人を上手に操る会話テクニック」という趣旨の書籍も多数出版されており、試そうと思えば会話で人の言動を「誘導」できてしまう。

 誘導といえば、「マスコミの情報操作」という言葉もひと昔前から一般に出回るようになった。新聞やネットニュースの見出しの使い方、テレビ番組のねつ造・やらせ・過剰演出、統計のグラフに仕組まれた工夫、アンケートの設問と回答結果の発表の仕方など、「見せ方」で情報を受け取る人々の気持ちを導くことができる。

 端的に言えば、情報を発信する側には受け取る側を上手に誘導する「トリック」が存在し、そのトリックが日常のあちこちに潜んでいるのだ。本書ではこれを「説明のトリック」と称し、情報社会を生きる私たちに警鐘を鳴らすため、ひとつひとつ具体例を交えながら解説している。

■この本はすべての読者の心に響くのだろうか?

 まさしく現代の情報社会を生き延びるマニュアル本とも言うべき1冊。「ぜひ本書を手に取ってほしい」と言いたいところだが、読み終えた気持ちを正直に述べると、そうとも言えなかった。年齢に関係なく、本書を読んで心に響く人とそうでない人に差が出るのではないか。そう感じたのだ。

 本書は一貫して「情報リテラシー」の大切さを述べている。簡単に情報リテラシーを説明すると、「目の前の情報をうのみにせず、それが正しいかどうか吟味しながら上手に情報を活用すること」だ。意味は誰でも分かるけど、実践するとなるとなかなか難しい。私だってできているか分からない。なによりそれを本気で必要としなければ身につくこともない。

 SNSのデマ投稿に「はっ」とする人しない人。メディアの流す情報に慎重になる人ならない人。これらは「情報リテラシーの差」というより「人間の成長具合の差」でもあるような気がする。本書を読んで自身の行いに気がつく人がいれば、さらっと読んで「情報社会って怖いね」で終わる人もきっといるだろう。

 本書が出版されたことには大きな意義があるし、素晴らしい書籍に間違いない。しかし肝心の受け取る我々の「中身」が「すっからかん」ならば、本書は風化した過去の書籍に紛れてしまう。本書のタイトルの「よく考えて!」という副題にそんな意図を感じる。「よく考えること」は、人として「成長する」ことでもあるからだ。

 情報の氾濫は止められない。社会に仕掛けられたトリックに引っかかってしまうこともある。人間だから失敗は仕方ない。問題は、そのあとどう生きるか、情報とどう付き合っていくかなのだ。情報社会はサイコーだ。だからこそ私たちもサイコーな生き方を目指したい。

文=いのうえゆきひろ