「老後が不安」「男の育児問題」…動物たちがまじめに回答!『ざんねんないきもの事典』今泉忠明先生が監修!

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公開日:2018/4/23

『いきもの人生相談室』(今泉忠明:監修、小林百合子:著、小幡彩貴:イラスト/山と渓谷社)

 何かに悩んだとき、誰かに話を聞いてほしくて相談することがある。その相談相手というのは、たいてい人間だ。うん、そうだ。しかし『いきもの人生相談室』(今泉忠明:監修、小林百合子:著、小幡彩貴:イラスト/山と渓谷社)は、誰もが抱えがちな悩みを自然界の動物に相談した一風変わった本だ。

 表紙を見るとお茶目な雰囲気が漂う本書。しかし甘く見てはいけない。自然界で暮らす動物たちは、常に外敵や飢えなどの危険と戦い続けている。人間よりもはるかに「生きる力」が備わっているのだ。そんな彼らだからこそ導き出せる力強いヒントが本書にいっぱい記されていたので、少しだけご紹介しよう。

■“年功序列”のアフリカゾウさんの場合

Q.40歳を過ぎてもいまだに独身で老後のおひとりさま生活が怖いです。(43歳/女性)

A.人生で培った知恵と経験があれば仲間に慕われ、老後もにぎやかです。

 ひとりぼっちの老後は想像するだけで寂しい。野生動物の場合も年老いると仲間から追い出されたり、誰の助けも得られず死んだりすることがほとんどだとか。やっぱり自然界は厳しい。

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 そんな中、アフリカゾウの群れは最年長の「おばぁ」がリーダー。長年の経験から水や獲物が得られる場所へ群れを率いたり、数多の修羅場をくぐった知恵で危険を回避したり、体が衰えても皆から頼りにされる存在だそうだ。

 たとえパートナーがいなくても、周囲の人を助けたり知恵を分けたりしていれば、必ず誰かから必要とされる存在になる。「日々知恵を蓄積し、色々なことに挑戦し、多様な経験を積んでみんなから頼られるおばぁになろう」と提案するアフリカゾウさんに「年の功」を感じる。

■“仲直り上手”チンパンジーさんの場合

Q.彼氏とケンカばかりしています。もう別れたほうがいいのかな?(26歳/女性)

A.ケンカは悪いことじゃない。長引かせるのがダメなんです。

 目からウロコが流れ落ちるこの回答。実はチンパンジーもよくケンカをするそうだ。しかし人間と違うのは、すぐに仲直りすること。折を見てケンカ相手に近づいて、そっと体にタッチ。まだ怒っているようなら、少し時間を置いて今度は優しく毛づくろい。そして徐々に抱き合ったりキスしたりして、仲直り。微笑ましい光景が思い浮かぶ。

 たいていのケンカは、一方が絶対的に悪いわけじゃない。「なんで私が謝らないといけないの!?」と冷戦状態を続けると、お互い意地になって関係が悪化してしまう。今度彼氏とケンカしたときは、チンパンジーのようにスキンシップで仲直りのアクションを起こしてはいかがだろう。

■本当に人生相談を必要としているのは誰か?

 この他、「男が育児って現実的にムリじゃない?」という相談に「私たちは飲まず食わずのワンオペ育児をしています!」と回答するコウテイペンギンの父親が登場したり、「大学受験に失敗しました。僕の人生は終わりですか?」という相談に「ずっと勝ち続ける者などいない。次の勝負に備えて、食って寝ろ」と回答するイケメンなトラが現れたり、想像もしない斜め上からの回答が目立つ本書。なかには動物らしいトンデモ回答も飛び出し、思わず笑ってしまう。読むだけでなんだか元気が出てくるから不思議だ。

 しかし本書の最後には、そんな笑みも消し飛ぶ寂しい記述があった。この人生相談では47種の動物が協力しているが、そのうち15種以上が絶滅の危機に瀕している。年の功が冴えるアフリカゾウも、カップルの在り方を教えてくれたチンパンジーも、イケメンな回答をくれたトラも、みんな危ない。コウテイペンギンも絶滅の可能性が出てきたし、「百獣の王」ライオンもその危険が増大している。

 私たちはいつも自分の人生を生きることで精いっぱいだ。しかし時々は思い出してほしい。私たち以上に毎日を必死で生き抜いている動物が人間社会の向こう側にいることを。そんな彼らがいなくなったとき、誰よりも寂しくて辛い思いをするのは人間だということを。

 きっと、本当は逆だ。これからどう共生していくか、人間が動物の相談に乗るべきなのだ。

文=いのうえゆきひろ