貧困も失業もCO2の排出もゼロに! これからの貧困対策とは

社会

2018/5/17

『3つのゼロの世界 貧困0・失業0・CO2排出0の新たな経済』(ムハマド・ユヌス:著、山田 文:訳/早川書房)

 ムハマド・ユヌス氏は、2006年にノーベル平和賞を受賞したバングラデシュの経済学者・社会活動家だ。バングラデシュに「グラミン銀行」を創立し、農村の貧しい人々、主に女性に無担保の少額融資(マイクロクレジット)を行い、貧困者の自立を支援してきた。

 そのユヌス氏が、貧困、失業、CO2、どれも解決が難しいと思われる問題について、それらをなくす方法を示したのが本書『3つのゼロの世界 貧困0・失業0・CO2排出0の新たな経済』(ムハマド・ユヌス:著、山田 文:訳/早川書房)だ。

 まず、ユヌス氏は現在の資本主義のシステムがおかしいと指摘する。一部の者に富が集中し、富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなっている。貧困は貧しい人が作り出すのではない。貧困を作り出すのは、あらゆるリソースがトップへ押し寄せる傾向にある経済システムだ。現状の資本主義には欠陥があり、再設計されなければならない。グラミン銀行での経験からこのように述べている。

再設計された経済のエンジンには、三つの基本的な要素がある。第一に、われわれはソーシャル・ビジネスの考え方を受け入れる必要がある。無私という人間の美徳に基づいた新しい事業形態だ。第二に、人間は仕事を探すものだという考えを捨て、人間は起業家だという新しい考えと置き換える必要がある。第三に、経済の底辺にいる人たちに効果的に機能するよう、金融システム全体を設計しなおす必要がある。

 ソーシャル・ビジネスとは、日本でよくいうSNSなどのソーシャルのことではない。氏の定義では、ソーシャル・ビジネスは「人類の問題を解決することに力を注ぐ無配当の会社」だ。

 経済理論では、ビジネス・パーソンは利己心だけで動くと思われている。目的は利益を出すことただそれだけで、利益さえ得られれば経営者はみんな満足すると考えられているのだ。しかし、人間は金儲けのためのロボットではない。利己心と無私の心が両方備わっていて、社会問題の解決をビジネスの目的とすることができる。

 また、ソーシャル・ビジネスには、利益の最大化を目指す企業や、従来の慈善団体にはない長所がある。利益をあげなければならないというプレッシャーがなく、利益を求める投資家からの圧力もないから、現在の資本主義がうまく対処できない状況でも経営を続けることができる。それに、ソーシャル・ビジネスは収益を生み出すよう設計されており、経済的に自立している。だから、多くの慈善団体のように事業を続けるためにドナーから資金を集め続ける必要はない。

 例として、グラミン・ダノン・フーズを紹介しよう。グラミン銀行とフランスの多国籍食品企業ダノンの合弁会社だ。バングラデシュ農村の栄養不良の子どもたちに向け、ビタミンやミネラルなどの必須栄養素を加えたヨーグルトをつくっている。ヨーグルトを貧しい家庭に手ごろな値段で販売し、会社を自立的に維持するのに必要なお金だけをもらう。

 効果は幅広い。ヨーグルトは子どもたちの健康によい影響を与える。牛乳を生産する地元の農家は定期的な収入が増える。地元の女性はヨーグルトを売って回り、稼いだ歩合で家計を助けられる。また、ダノンで研修を受けた地元の人たちが工場を運営し、流通とマーケティングの担い手になって地域経済にさらに活気を与えている。

 第二の「人間は起業家だ」とはどういうことか。人は一生涯、誰もが、仕事を探すものになることもできれば、仕事を創るものになることもできるというものだ。つまり、他の起業家の仕事に依存するのではなく、自分自身が起業家になれるわけだ。

 実際、グラミン銀行の融資によって起業し、貧困から脱出した者が世界中で3億人にも達している。よい会社に入ることだけでなく起業という選択肢をもっと考えられるようにすべきだ。

 第三の「経済の底辺にいる人たちの金融システム」とは何か。起業や事業拡大にはお金が必要だ。しかし、従来の銀行は貧困者には信用力がないと思いこんでいて、保証のない者に融資などしてくれない。グラミン銀行のような、貧困者に金融サービスを提供する一連の新しい金融機関を作る必要がある。

 私はユヌス氏のノーベル平和賞受賞のニュースを知ったとき、農村の、教育もまともに受けられなかった多くの女性が、わずかな元手でビジネスを始め貧困から脱出したことが、驚きであり不思議だった。

 だが、本書を読んで納得した。そして勇気づけられた。日本や世界に蔓延する貧困や失業の問題にふれるたび暗い気持ちになっていたが、人類にはそれを解決するだけの知恵や力があると思わされた。

 あなたがどんな立場にあろうと、読めばきっと何かの希望を得られるだろう。職業選択に悩む若者にもすすめたい素敵な1冊だ。

文=高橋輝実