江戸時代、夏バテ予防にどんなものを食べていた? 江戸料理のうんちくが身につく『ハレのヒ』にほっこり

マンガ

更新日:2018/5/28

『ハレのヒ タヌキの良いふるまい』(フジモト/講談社)

 10年ほど前、筆者がある雑誌で寿司特集を作った時のこと。銀座など都内の寿司店に取材をするたび、職人の方に「江戸前(寿司)」の定義をたずねて回ったことがあった。彼らから返ってきたのは「江戸前とは握り寿司」から、「職人仕事を施したもの」「東京湾や江戸城(から見える海)でとれた魚を使うこと」などと十人十色で、イマイチ正解がつかめず悶々とした記憶がある(実際はどれも正解らしい)。当時のことは辛い出来事もあって忘れたい思い出だったが、今にして思えば江戸時代から続く食文化の奥深さ、懐の深さを実感できる良い経験だった。

 今頃どうしてそんなことを思い出したかというと、フジモトさんが「ヤングマガジンサード」で連載しているマンガ、『ハレのヒ タヌキの良いふるまい』(講談社)を読んだからだ。5月18日(金)には第1巻が発売されたばかりである。

■同居中の少女(タヌキ)の好物は「江戸時代の料理」

 よく晴れた夏の日。マンションの一室で、エアコンが故障して暑さにもだえる2人の少女がこのマンガの主人公だ。1人は狐堂くずは、クールで真面目な女子高生。もう1人はマミ、見た目は人間だが正体はタヌキである。

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 ある出来事をきっかけに一緒に暮らしている2人(1人と1匹)だが、事あるごとにもめてばかり……。その原因は食事にあって、タヌキのマミは現代の食べ物を口にすると化けの皮がはがれてしまう。くずはは仕方なくネットなどで食文化を調べながら、江戸時代に食べられていた料理を作ることに……。つまるところ『ハレのヒ タヌキの良いふるまい』は、少女とタヌキの不思議な同居生活を通して、「江戸時代の料理」の味と風情を楽しむドラマとなっている。

 たとえば第1話の『元気を出して』は、夏バテ気味のマミのために、くずはが「甘酒」を作るエピソード。お正月に寺社などで振る舞われるせいか、冬のイメージが付きまとう甘酒だが、古くから夏バテを防ぐ栄養ドリンクとして親しまれてきた。



 他にも、第2話の『おかしいわよ』では「うなぎ」をテーマに江戸前の起源を語り、第3話の『合うと思う』ではタヌキのマミにちなんで「狸汁(精進料理)」を紹介。毎回、くずはが料理にまつわるうんちくを披露するのがお約束となっていて、食マンガとしての体裁と読みごたえを与えている。



■おいしくて、懐かしくて、ちょっとほろ苦い、料理の味

 一方でこのマンガには妙にウェットな、独特の余韻があって、そこが他の食マンガとの大きな違いとなっている。ポイントは2人の同居生活の背景に横たわっている「母の死」だ。マミの元々の飼い主はくずはの母親で、物語をさかぼること1年前に、病気が原因で亡くなっている。母は生前、くずはとマミにそれぞれの面倒を見てほしいと託していたのだ。フジモトさんの描くキャラクターはかわいらしくデフォルメされていて、基本的にほのぼのとしたストーリーなのだが、彼女たちがひとつ屋根の下で生活している理由には、思いのほか深い事情がある。

 そんな「母との思い出」を呼び起こすスイッチになっているのが「江戸時代の料理」だ。第1巻で描かれている季節は夏。エピソード各話で紹介されている料理は、夏バテ予防にまつわる「甘酒」「うなぎ」「梅干」など、母との思い出に紐づいているケースが多い。くずははクールな性格のせいか、生前の母に対していつもそっけなく、本当の気持ちを伝えられなかった。そのため母の死に深く悲しみ、悔やみ、自分を責めている節がある。マミへの料理を口にするたび、母との思い出がよみがえってしんみりとするのだ。そんな背景が不思議な読後感となって、読者を少しだけ感傷的な気分にさせる。


 マミとの共同生活がくずはを心を癒すファクターになるのか。それが「タヌキの良いふるまい」なのか。2人の生活はまだ始まったばかりだが、彼女たちの料理にまつわる「昔を懐かしむ」物語を、今後も見守っていきたい。また、江戸料理のうんちくを学んだら、実際にそれを食べるのも本作を楽しむひとつかもしれない。

(C)フジモト/講談社
文=小松良介

この記事で紹介した書籍ほか

ハレのヒ タヌキの良いふるまい(1) (ヤンマガKCスペシャル)

著:
出版社:
講談社
発売日:
ISBN:
9784065114599