この本には、これから日本で起こることが書かれている!? 壁で分断されていく世界の真実

ビジネス

2018/5/24

『分断した世界』(高城剛/集英社)

 スマホやPCを通して、どこからでも情報にアクセスできる時代。いまや、世界は一つであり、世界のたいていのニュースは手元で知ることができる――。私たちはふだん、そんなふうに思いがちだ。

 たとえば、イギリスがEU離脱を決断したというブレグジットのニュース。報道記事の見出しをざっと読んで、現在のイギリス経済や急増する移民の問題が原因、となんとなくわかったつもりになっている人も多いだろう。だがその真相を理解するには、第二次世界大戦にまでさかのぼるEUの成り立ちや、さらに古く、中世から続くイギリスの階級社会といった背景まで知る必要があるという。

 だがそれを理解したところで、実際に世界で起こっている出来事や背景について深いレベルで、さらには現地の肌感覚も含めて知ることはとても難しい。私たちが漠然と把握している世界の姿とは、はたして本当のものだろうか? ある面だけを切り取って、すべて理解したつもりになってはいないだろうか?

 すぐれた本や適切な解説は、私たちの視点を大きく引き上げ、俯瞰することによって全体像の立体的な把握を可能にしてくれる。本書『分断した世界』(高城剛/集英社)で述べられている世界の現状には、愕然とさせられた。私たちの日常は、史上最も激しく揺れ動いている時代の、巨大なうねりの中で、危ういバランスを保ったうえに成り立っているのかもしれない。

 著者のメディアクリエイターとしての派手な肩書きから連想されるものとは異なり、本書の内容はきわめて硬派だ。冷静で抑えた筆致の奥にあるのは、秘められた著者の信念と情熱のように感じる。

■SFや未来予測ではない。これが世界の現実だ

 一般のニュースや報道では私たちがなかなか知りえない世界の「いま」を伝えてくれる本書は、3章から構成されている。

 第1章は、1989年のベルリンの壁崩壊後、「グローバリズム」という潮流によって統合された世界が、いま再び分断へ向かっているという時代の流れを追った説明だ。「グローバリズム」という流れがとっくに終焉を迎えていることや、金融とテクノロジーが世界を絡めとって動かしていく過程が、わかりやすくまとめられている。

 第2章、第3章はアメリカとヨーロッパで進みつつある「分断」をテーマにしており、実際に世界各地を回った著者の現地ルポからは、日本のマスコミ報道を通しては見えない緊張感や、追い詰められた閉塞感を知ることができる。

 たとえば先進国、しかも超大国のアメリカにおいて、警察も消防も機能停止し公的システムが破綻している地域があるという。その一方で、上位1%の富裕層がもつ資産は、残り99%の所有する資産総量を上回るという“格差社会”が実際に出現している。国や政治に頼ることを諦め、自衛に向かっていく市民の姿は、まるで暗い未来社会を描くSF映画やディストピア小説を思わせるが、これは2018年の現実だ。

 そのような世情の中で就任したトランプ大統領が、社会の分断をさらに進めていく。EU諸国は難民を押しつけあい、さらには個人情報の欧州域外への移動を規制する「GDPR」(欧州一般データ保護規則)を2018年5月に施行する。そしてサイバースペースに壁を設けている中国では、繰り返す歴史の暗示どおり、バブルが崩壊しつつある…。

 本書は、世界の生々しい真実を思い知らせてくれる。

■「分断」が進む世界の先に、再び「統合」はやってくるのか?

 世界は、おそるべき速度で絶望感に覆われつつあるようにも見える。グローバリズムの名のもとに統合された世界はまやかしでしかなく、結局のところごく一部の資本家を潤したに過ぎなかったのだろうか。その反動としてやってきた「分断」は、世界を、そして私たちをどこへ導こうとしているのか。

 本書は、世界の分断と、そして統合を描く壮大な企画の前編なのだという。この先に、分断された世界が、再び統合へと向かう日は来るのだろうか。これから描き出されるであろう近未来の世界とは――。

 絶望の先には、希望の物語があると信じたい。

文=齋藤詠月