“完売”は成功ではなく失敗!? 売れるお店づくりのヒントはコンビニにあり!

ビジネス

公開日:2018/5/29

『売れる化』(本多利範/プレジデント社)

 どうすればお店の商品がもっと売れるのか。スーパーや書店、カフェなど、直接消費者を相手にするお店を経営する人たちならば、毎日頭を悩ませている切実な問題だろう。季節の変化や毎日の天候、次々と現れるライバル店への対応に追われるだけでなく、近年はネット通販という見えない敵とも戦わなければならない。

 ビジネス書で何かヒントを得ようにも、都心の大企業で働くビジネスマン向けのものが多く、なかなかお店の経営にそのまま当てはめることはむずかしかったりする。そんなときにおすすめしたいのが、本書『売れる化』(本多利範/プレジデント社)だ。大手コンビニチェーンで長年商品開発をしてきた著者の経験を基に、小売店全体に通用する「売れる商品の開発ノウハウ」や「売れる店舗づくりのテクニック」が紹介されている。

■スーパー横のコンビニがなぜ潰れないのか

 著者がよく訊かれる質問に、こんなものがあるという。「コンビニのとなりにスーパーができた。スーパーはコンビニよりも品ぞろえも多く、価格も安い。それでもコンビニが潰れないのはなぜなのか」。

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 確かに、スーパーはコンビニと同じカテゴリの商品を多く販売しているし、大量発注によって価格も安く抑えられている。それでは、なぜこのふたつは共存できるのか。それは、スーパーとコンビニでは、そもそも人々が求める役割が違うからだ。

 コンビニの大きな役割のひとつに「タイム・コンビニエンス」というものがある。人々はコンビニでお弁当を買うことで、家でお弁当を作る時間を節約している。コンビニATMを使うことで、銀行に行く手間を節約している。

 著者は、コンビニとはタクシーみたいなものだというが、これはまさにぴったりな例えだと思う。人々は、相応の料金を支払うことで、自分の時間を節約しているのだ。コンビニは、安さを売りにするスーパーとは異なり、こうした“便利さ”を売っているといえよう。あなたのお店は、こうした明確なコンセプト(=何を売る店なのか)があるだろうか。

■「完売」は成功でなく、失敗である

 たくさん仕入れた商品がもくろみ通りに「完売」すると、そのことに満足してしまいがちだ。コンビニでも、フードの発注数と販売数がほぼ一致している店があるという。しかし、著者はこうした店を「売り切った」のではなく、「本当はもっと売れたのに、発注が足りなかったために売り逃した」のだと判断する。例えば、「10個売れるだろう」と予測するお弁当があるとすれば、仕入れるべき数は、廃棄になるかもしれない分を追加した12個。

 一見「そんなのもったいない!」と思ってしまうかもしれないが、これは“必要な廃棄”なのだという。人々は、棚にひとつだけぽつんと置かれている商品よりも、ある程度の量を陳列している商品を欲しがる傾向があり、最後のひとつは売れにくい――これは、パン屋や鮮魚屋などにも当てはまるそうだ。

 本書では、このようにコンビニ業界での考え方を一般化し、他の小売業でも生かせるノウハウに落とし込んでいる。著者いわく「消費者を相手にするすべてのビジネスパーソンに向けて書いた」とのこと。きっとあなたのお店にも、何かヒントを与えてくれるはずだ。

文=中川 凌