もしかしてウチの会社、「残念な職場」かも…と思ったら

ビジネス

2018/5/25

『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(河合薫/PHP研究所)

 仕事というのは、人の生活において欠かせないものだ。人生の大きな割合を占める労働だからこそ、働く場所――すなわち「職場」もまた重要となる。ところが、傍から見ればあまりにも奇妙キテレツな価値観や常識がまかり通る「残念な職場」がたくさん存在しているのだ。これは特定の企業、特定の組織だけが抱える固有の問題ではなく、あらゆる職場が「残念な職場」になるリスクでもある。

『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(河合薫/PHP研究所)は、様々な学術的なデータと実際に現場で働く人たちへのインタビューに基づき、労働環境における問題点を指摘する。「有能な現場担当者が出世をすると無能になる」職場や「女性への根拠のない偏見が根強い」職場がどれだけおかしなものなのか、実例を交えて語られている。

 日本は高度経済成長を経験したことで、現場で働く人々の能力の高さと管理・経営に携わる人間の能力に溝が開いたという。現場では新しい技術や知識が共有され、磨き上げられ続ける一方で、好景気に乗れば会社が勝手に成長するために「経営力」を求められることはない。そんな時代の産物が「現場一流、経営三流」という言葉だった。だが、優秀な現場担当者が昇進すれば、そうした問題は解決する……というのは大間違い。平社員として優秀な人間も上司になると無能と化してしまう。

 現場で働く場合と管理職に就いた場合とでは求められる能力が違う。これも出世した人間が無能になる1つの要因だが、もっと大きい原因は「ジジイ文化」だと著者は指摘する。「ジジイ」とは男性だけを指すのではなく、「保守的で変化を嫌い、保身にばかり目を向ける」ような人のことだと著者は定義付けている。そうした人間が上司にいると、優秀な人間は出世の道を阻まれ、「ジジイ文化」を受け入れる人間だけが出世する。優秀な人間は、自らの立場を脅かす者として、嫉妬と排除の対象となるからだ。保身ばかりを考える人は、責任を周りに押し付けつつ、組織を改善することなど思いつきもしない。そういう「ジジイ」ばかりが出世を続けるため、どれだけ現場に優秀な人がいたとしても、経営は三流であり続けるのだ。

 他にも「女性は男性と違って当たり前」や「50代の社員は役立たず」といった常識のおかしさも、データや実験結果から指摘している。だが、きちんとした客観的根拠があるにもかかわらず、それらは顧みられることなく、間違った常識が消えることもない。「人は見えるものを見るのではなく、見たいものしか見ない」という。結果として、事実とは異なる思い込みが横行し、「残念な職場」は形成されていく。最初は何も知らずに飛び込んだ職場で、被害者として負担を強いられる人も、次第に「残念な職場」の常識に染められ加害者になっていく。そんな悲しく繰り返されるループが実在していることを知るのは大事である。

 しかし、本書はただ「残念な職場」を揶揄するものではない。著者は教育心理学者ジェローム・セイモア・ブルーナー博士の言葉を引用して、「心は習慣で動かされる」と語っている。習慣を変え、文化を変えれば、「残念な職場」も改善していくというのだ。そのために必要な情報や手法は、第5章を通じて紹介されている。もちろん、長い年月をかけて固まってしまった常識や悪癖というのは、簡単に崩れるものではない。しかし、ちょっとした心がけが変えるものがあることも忘れてはいけないのである。今の職場に何か違和感を覚えている人や「自分も残念な職場づくりに貢献しているかも」と感じている人には、ぜひ一読していただきたい本である。

文=方山敏彦