新たなハラスメント「ハラ・ハラ」って知ってる? 会社を潰す恐ろしい社員の生態

ビジネス

更新日:2018/5/29

『「ハラ・ハラ社員」が会社を潰す』(野崎大輔/講談社)

「○○ハラスメント」、略して「○○ハラ」という言葉を最近よく耳にする。セクハラ、パワハラ、マタハラ、アルハラ、スメハラ、カラハラ、テクハラ、ブラハラなどなど枚挙にいとまがない。だが、「会議中に居眠りするなら出ていけ!」と後輩社員をちょっと𠮟っただけで「先輩、それパワハラです」と返されたら、𠮟った当の本人は「ハラハラ」してしまうのではないだろうか。

 一部の「権利だけ主張型」の社員が「ハラスメント」という言葉を濫用し、会社の上司や経営者を困らせる事態が後を絶たない。もちろん、セクハラやパワハラを擁護するつもりはないが、過剰な主張は職場の雰囲気を悪くし、会社そのものをダメにしかねない。

 この状況に特定社会保険労務士としての立場から疑問を呈する書籍が『「ハラ・ハラ社員」が会社を潰す』(野崎大輔/講談社)だ。この書籍のタイトルにも使われている「ハラ・ハラ」という言葉は、何でもかんでもハラスメントだと言い立てる社員の言動そのものが新たなハラスメントだという意味で、「ハラスメント・ハラスメント」の略である。本稿では、そんな「ハラ・ハラ」の実態を本書に即してひもといていきたいと思う。

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■「子どもさんは元気?」はパワハラになる!?

 本書で紹介されている「えっ?」と思わず驚くような事例をひとつ紹介しよう。ある会社で、男性課長が女性社員に「子どもさんは元気? もうだいぶ大きくなったでしょう」と尋ねたところ、「私生活に踏み込まないでほしい!」と返され、そのまま総務部コンプライアンス窓口に駆け込まれてしまうという事件が起こったそう。総務部の職員は、「あの課長に限って、ハラスメントということはないだろう」といぶかしがっていた。当の女性社員に事情を聞いてみると「仕事の場で個人的な話をされるのはプライバシーの侵害だ」というのである。

 たしかに、職場でしつこく個人的な話を聞きまくるとプライバシーを侵してしまい、厚生労働省の定める「パワハラ」にも当てはまってしまうことになる。しかし、今回の場合はそうではないし、プライベートな問題にずかずかと踏み込んでいるわけでもない。むしろ、職場環境を円滑なものにする健全なコミュニケーションのキャッチボールの第1投目だったのではないだろうか。

 最近では、こうした「ハラスメント」に過度に敏感になっている人が増加の一途をたどっているのである。このままでは「一億総活躍社会」になるはずが、「一億総クレーマー化社会」になってしまいかねない。そのような事態を未然に防ぐためには、その原因を探る必要がある。

■「ハラ・ハラ」社員が増えたのは、「終身雇用制」の衰退が原因?

 本書では、「ハラ・ハラ」社員の増加の原因が「年功序列・終身雇用制度」の衰退にあるのではないかとの分析がなされている。

 年功序列・終身雇用制度というのは、労働年齢とされるおよそ40年間で一度も転職することなくひとつの会社に勤めあげる制度で、その間年を経るごとに給与が上がっていく仕組みだ。この制度が次第に廃れつつあるのはみなさんもご存じの通りだが、いったいなぜこのことが「ハラ・ハラ」社員の増加につながるのだろうか。

 終身雇用制度の下では、半ば自動的に昇給できるため、たとえ会社で少し嫌なことがあったとしても我慢することのメリットがあった。ところが、この制度が廃れつつある現在では、スキルアップのためなら転職してなんぼと考える人も多く、愛社精神や組織への帰属意識が薄い人も多い。そうすると、会社でちょっと気に食わないことがあった場合に、別の会社へ移って新たなキャリア形成をすればいいと思う人が増えているのだろう。

 こうした考えを持つ人が起こす行動が「ハラ・ハラ」で済めばまだいいが、慰謝料など会社からもらえるものはもらっておこうという意識だけが立派な人もいるのだという。一定の期間だけであっても、ひとつの会社に勤めているのであれば、その間はきちんと帰属意識をもち組織のためになる行動をとってほしいものである。

 ここで紹介した事例は実はまだ「かわいい」ほうで、本書の中にはぞっとするような事例も満載だ。そして、「ハラ・ハラ」社員が増えていることの社会的な背景分析だけでなく、「ハラ・ハラ」社員の心理についても非常にうまくまとめられている。本書を読んでいると、「あー、こんなヤツいるいる!」というケースも見つかるかもしれない。

 最後にもう一度念押ししておきたいが、本書も本稿も決して「ハラスメント」を容認するものではない。それだけはぜひみなさんの心に留めておいていただきたい。

文=ムラカミ ハヤト