売れる本が作りたい! 駆け出し作家がたどり着いた極意とは…

文芸・カルチャー

2018/6/21

『拝啓、本が売れません』(額賀澪/ベストセラーズ)

 作家と呼ばれる人になることは、東大合格以上に難しい。東大の合格者は毎年1000人以上いるけれど、作家デビューできる人は毎年果たしてそこまでいるかどうか。作家のメジャーなデビュールートである新人賞だって、倍率数百倍は当たり前だ。

 しかし、たとえなれたからといって「作家になる夢が叶ってハッピーエンド」というわけにはいかない。選ばれしエリートたちの本当の地獄はここから始まるのだ!

『拝啓、本が売れません』(額賀澪/ベストセラーズ)の著者も、こうした地獄の淵を覗いてしまった新人作家の1人である。著者は2015年、松本清張賞と小学館文庫小説賞というメジャーな新人賞をダブル受賞してデビューした。1つ取るのも難しい新人賞を2つ同時に取ってしまったスゴイ人である。いわゆる期待の大型新人、新進気鋭の作家ってやつだ。デビュー3年目までに受賞作を含めて7冊以上の単行本を出版し、そのうちの1冊は全国読書感想文コンクールの課題図書にもなった。素人目にはなかなか順調そうにも見える。

 でも、そんな著者でも本屋の書棚を見て叫ぶのだ。「私の本がなーい!」と。

 出版不況といわれて久しいが、作家や本屋、出版社など本に関わる人々の現状はとても厳しい。とにかく本が売れないのである。ときどき何十万部も売れるようなメガヒットが生まれることもあるけれど、大部分の本は売れない。特に実績のない新人作家の、1500円近くするような単行本は売れない。それは比較的恵まれた環境にいる著者ですら例外ではない。「びっくりするくらい売れない」と著者は言う。

 売れないから1冊あたりの出版部数も少なくなるし、少なくなれば手元に届けることのできる読者の数も減る。場合によっては書店の棚に並ぶことすらなく消えていく。もし、売れない状況が続いたら? 出版部数が1万部、5000部、3000部とどんどん減って、最終的には本が出せなくなる。それは、作家としての死を意味する。売れる本を作ることは、作家にとって生き残りをかけた至上命令なのだ。

 デビュー以来、著者は単行本の初版部数1万部以上をキープしていたが、なんと最新作で初版部数を8000部に減らされてしまった。作家生命のピンチである。

「手遅れになる前にどうにかしなければ」と切羽詰まった彼女は、ある奇策を思いつく。それは、旅に出ること。それも「本を売る方法」「売れる本を書く方法」を探す旅である。

 売れている本の周囲にいる人々やコンテンツを売るプロのところに行けば、何かヒットする本の秘訣的なものが見つかるかもしれない…。

 作家にとって、売れる本を書くこと、多くの読者に自分の作品を読んでもらうことは悲願である。まだ大ヒットに恵まれていない作家ならなおさらだ。

 売れる本を書いてサバイブしたい、ついでに映像化を狙ったり本屋大賞や直木賞取ったりしたい。新人作家の切実で、野望に満ちた旅が始まった。

 カリスマ書店員、ヒットを連発するラノベ界の名物編集者、売れる本の表紙を作る装丁デザイナー、Webマーケティングのプロ、文芸作品やコミックの映像化を手がける映像プロデューサー。

 著者がこの旅で出会ったのは、どれもその道の超一流のプロたちばかりである。それゆえに、その意見はときに厳しく、容赦ない。そして、著者の方も必死に彼らに食らいつき、ときには遠慮なく本音を晒し、彼らが「リアルに感じていること・考えていること」を引き出していく。

 その結果、作家・額賀澪が何を学び、どう進化したのか。それは本書を実際に読んで確かめてみてほしい。これは出版業界の裏側や作家業の現実を書いた本であると同時に、「売れる本を作るためのメソッド」をについて書かれた書かれた挑戦的な一作でもある。ついでに、巻末には新作小説の抜粋(1章分)も収録。作家として、自分の作品にどう活かすのかという解答も出した。本や創作に関わるすべての人にとって、本書から得られるものは多いはずだ。

文=遠野莉子