生駒里奈はいかにして乃木坂46卒業を決意したのか? 本人の言葉で読み解くエッセイ

エンタメ

2018/6/24

『立つ』(生駒里奈/日経BP社)

 メンバーは映画やドラマ、CM、バラエティ番組、雑誌にひっぱりだこ。コンサートは常にソールドアウト。いまやアイドル界のトップに立ったともいえる乃木坂46だが、「AKB48のライバルグループ」として結成された2011年当時には、少なからず世間からの向かい風が吹いていたのは事実だ。何しろ、国民的人気のAKB48のライバルを名乗っているわけだから反感を持つアイドルファンが出てくるのも当然である。そして、いわゆる「アンチ」の矢面に立たされたのは初代センター・生駒里奈だった。

 しかし、秋田県から上京したばかりの弱い少女だった生駒は、いつしか強い大人の女性に変わっていく。著書『立つ』(日経BP社)は日経エンタテイメント!誌での連載を単行本化した一冊だ。本書では、2014年5月から卒業にいたるまでの心境が綴られている。彼女自身が「苦しみや葛藤を文字で残すことは最後」と記していることから分かるように、ここにある言葉は驚くほど実直だ。同時に、純朴なアイドルがどうして「プロの表現者」を目指すようになったかがまっすぐ伝わってくる内容でもある。

 本書で振り返る4年間は、乃木坂46にとって大躍進といえる日々だった。この間にアリーナクラスでコンサートを開催できるようになり、シングルCDの売上はミリオンを突破、大晦日のNHK紅白歌合戦には3回出場と、グループの人気は加速していく。

 しかし、生駒は常に謙虚かつ冷静な視点で自分自身とグループを見つめてきた。2014年4月から翌年にかけて兼任していたAKB48の活動では乃木坂46との実力差を痛感する。そして、自分も含めた乃木坂46のパフォーマンス力に課題を見つけ、成長しようと考える。乃木坂46のコンサート会場が大きくなっていっても決しておごりたかぶったりはしない。むしろ、実力が追いつかず「悔しい」と感じ、反省する部分の方が多い。生駒は乃木坂46の「外の世界」を知ったことで、自分たちの姿を客観的に分析できるようになったのである。

 こうした生駒の成長意欲は、やがて「演技」に向けられるようになっていく。本書でも、生駒が立った舞台の仕事について書かれているとき、テンションが高くなっているのが読み取れる。福田雄一演出『16人のプリンシパル trois』、ケラリーノ・サンドロヴィッチ脚本『すべての犬は天国へ行く』、乃木坂メンバーから離れ個人で出演した『舞台版 こちら葛飾区亀有公園前派出所』『モマの火星探検記』など、ときには壁にぶつかりながらも、過去の自分を更新できる喜びが、舞台の仕事にはあふれていたのだ。

 こうした挑戦を続けるうち、生駒の胸にはある想いが生まれてくる。そして、彼女は自分の心にしたがった結果、乃木坂46からの卒業を決意した。

今のアイドルは活動の裏側もドキュメンタリーとしてさらして、「応援したい」と思ってもらうことで成り立っていると思います。でも、これからの私はテレビや舞台に出たその瞬間だけで、見た方に「楽しかった」と思ってもらえるようになりたいんです。

 もちろん、生駒が乃木坂46やアイドルを下に見ているわけではない。本書で、先に卒業していったメンバーに尊敬を、後輩メンバーにはエールを送っていることからも明らかだ。ただ、生駒は「乃木坂46」という冠が取れた場所で、自分の力を試そうとしているのである。

 本書を読むと、生駒の謙虚さが逆に「自信のなさ」に読める瞬間もあるだろう。ただ、生駒はこう書いている。

これまでも「自信は持たなくていい」と話してきましたが、ずっとその気持ちは変わりません。これからも「自信は持たない」を「ストイック」という言葉に変換して頑張っていこうと思います。

 その「ストイックさ」で乃木坂46を引っ張ってきた彼女が、アイドルの枠に留まらない表現者としてどこまで羽ばたくのか、期待しかない。

文=石塚就一