これぞ最強のサバイバル術! 意識高い系じゃない人に必要なのは◯◯力

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2018/6/24

『ヨシダナギの拾われる力』(ヨシダナギ/CCCメディアハウス)

 世間には「好きなことを仕事にする」ための方法論があふれている。学校では夢を持つことの大切さを教えるし、話題になるのは好きなことを仕事にしてキラキラ輝いている人たちなので、みんなそうしなくてはいけないのではないかと悩む人は多いだろう。そんな人には『ヨシダナギの拾われる力』(ヨシダナギ/CCCメディアハウス)を薦めたい。

 著者の現在の職業は「フォトグラファー」。これは本人がつけた肩書ではなく、メディアがつけたものだ。ここまで来るには紆余曲折があった。著者は中学2年生のときに不登校になり、高校には進学しなかった。幼い頃から友達が少なく、絵の中に独自の世界観を表現するような子どもだった。人の勧めでグラビアアイドルになったものの、社会性や協調性に乏しいためアイドルとして活動するのが苦しくなり、好きだったイラストの仕事を始めることにした。しかし、好きなものを仕事にしたことでイラストの仕事が嫌いになってしまった。上には上がいること、日本ではなかなか評価されないこともあってイラストレーターとして続けていくのがつらくなったのだ。イラストの仕事をしながらも、著者はアフリカの少数民族に会いに現地に通い、その写真を細々と自身のブログにアップしていた。すると、その写真の珍しさがメディアで取り上げられるようになり、職業まで与えられたという。

 著者は基本的には脱力系で向上心などとは対極にある人物だ。しかし、本書を読めば著者は自分のことをかなり客観視できる戦略的な側面があると感じるはずだ。著者のユニークな点、それは「写真は好きでも嫌いでもない」こと。著者の言によると、写真の技術では、ほぼ初心者である。構図や被写体の選び方が珍しいだけで、写真としての価値はあまりない。写真がうまくなりたいとも思っていないので、写真が下手だと言われてもくやしさは感じない。その反面、アフリカの少数民族の一番いい表情を引き出すことだけは他の人に負けないという。また、アフリカに行けば、日本では食べないような食事が提供されることもある。牛の血やヤギの頭、泥水のコーヒー、イモムシなど。こうしたものを特に嫌がる風なく食べているという印象を持たれるようだが、実はかなりの葛藤がある。この点について、著者の強いこだわりが感じられるのが次の文だ。

明らかに自分が不得意とする部分に関しては素直に「できない」と即答するが、もともと「ココだけは他人よりも長けているだろう」と思われている部分については、絶対に弱いところは見せられない。むしろ、見せたくない。なぜなら、人よりできる部分が限られているからだ。

 限られた狭いフィールドでは絶対に負けられないと考えているのが、著者である。夢のない自分はできることややりたいことを探しても、それが見つからないのが分かっている。だから「やりたくない」ことを決めている。そうすれば、自然とできることにたどり着く。逆転の発想である。

 著者を作ったのは何だったのか。大きな影響を与えたのは、母だった。母は幼い著者にこのように言ったらしい。

世間的には特別可愛いわけではない。でも、笑顔に愛嬌があるのだから、とにかく愛想よくしていなさい。そうすれば、きっと生きていける。

 物事を冷静に見る母親の影響で、著者は子どもの頃から壮大な夢や希望を抱くことはなかった。しかし、母の言葉を守ってきたため、人の縁には相当恵まれていたし、おかげでここまで生き延びてこられたという。グラビアアイドルになったのも、イラストレーターになったのも、写真を始めたのも、アフリカに行ったのも、すべて周囲の人に「拾われた」からだ。

 著者の経歴や考え方は、普通とちょっと違っている。一方で、徹底した集中と選択の積み重ねであることも分かる。これぞ、と思った人に愛敬を振りまくのも立派な戦術だ。肩の力を抜いてゆるく生きていきたい人は、「拾われる力」を磨くのも一つの方法だろう。

文=いづつえり