腹痛のとき、どう表現する?「病理医ヤンデル」で有名な先生が説く、診察で症状を上手に訴えるコツ

健康・美容

更新日:2018/7/6

『病状を知り、病気を探る』(市原真/照林社)

 病気には様々な種類がある。それを見抜き、適切な処置をするのがお医者さんの仕事だ。そして病気には必ず「症状」がある。インフルエンザなら「発熱」「めまい」「体の節々が痛む」という具合だ。

 様々な症状をはっきりと診断することで、ごまんと存在する中から1つの病気を特定し、適切な処置をする。これもお医者さんの仕事だが、同時に看護師さんに求められるスキルもある。

 入院している患者さんの容態がいつもと少し違う。来院した患者さんの様子が普通ではない。こういった異変を正確にキャッチすることが、いちはやく病気を突き止め、患者さんの苦しみを救うことになる。

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『病状を知り、病気を探る』(市原真/照林社)は、症状を見つめることで病気を見つけ出す「病理学」を解説した書籍だ。ネット上で「病理医ヤンデル」の名前で有名な札幌厚生病院病理診断科医長の市原真先生が、本書で医療従事者に診断の大切さを訴えている。

 医療従事者向けの専門書といえる本書だが、この記事を書く私としては、一般人も読んで損がないように感じる。というのも、お医者さんが病気を診断する上で重要なのは、患者の訴え、つまり症状だ。お医者さんがどのような観点で患者の訴えを聞き取り診断していくか、その過程を知ることで、私たち自身もお医者さんにどのように症状を訴えればいいか理解できる。

 昨今ではセカンドオピニオンが当たり前になりつつあるが、実はお医者さんとしても「もっと正確に症状を教えてよ……言葉足らずで分かんないよ……」なんて思っているかもしれない。

 あくまで個人的な意見だが、本書が医療従事者と患者の距離を縮める「架け橋」になる可能性を秘めているように感じるのだ。

 本書では、私たちが日常で悩まされがちな「腹痛」「胸が苦しい」「呼吸がつらい」「発熱」「めまい」の5大症候を取り上げ、それぞれの症状から病気を診断する方法を解説している。この記事では「腹痛」を、私たちにも分かる程度の範囲だけご紹介したい。

■診察でお医者さんに訴えたい6つの項目

 読者はお腹が痛いとき、お医者さんにどのように表現しているだろうか。

「胃のあたりがキリキリするんです」
「ずーんと重くて……」

 ついつい使いがちなこの表現だが、よく考えてみると実に抽象的だ。このあいまいな表現で病気を診断するのだから、やっぱりお医者さんってすごい。

 本書では、お腹が痛いときの主な原因を紹介している。それが以下だ。

・おなかの壁に炎症が起こって痛い
・おなかの壁が引っ張られて痛い
・管がつまったり、引き延ばされたり、ねじれたりして痛い
・血管が痛い
・臓器に炎症が起こって痛い
・神経の病気で痛い
・代謝の病気(全身病)のせいでなぜか痛い
・胸の病気なのにおなかが痛い

 これに加えて、病気の痛みには場所が存在する。それが「体性痛」と「内臓痛」だ。

 体性痛とは、体の表面で感じる痛みのこと。皮ふ・筋肉・骨・血管・腹膜(お腹の内側の壁)などが該当し、患者自身が「ここが痛いです」と指し示すことができる。

 一方、内臓痛は、胃や腸をはじめとする内腔側(食べ物が通る場所の側)で感じる痛みのことだ。やっかいなことに、私たちは内臓の内側を直に見ることができないので、胃や腸が痛いことが分かるが、はっきりとした場所を指し示すことができない。そのため「胃のあたりがキリキリするんです」「ずーんと重くて……」というあいまいな表現になってしまう。

 だからお医者さんは、「どこが痛みますか?」「どのように痛みますか?」という問診で症状を判断し、病気を断定していく。

 このあたりは専門領域なのでお医者さんや看護師さんにお任せするとして、やはり私たち患者自身が知っておくべきなのは、「お医者さんが求めている症状に関する情報」ではないだろうか。

 本書では「痛みの情報収集の基本」が解説されており、患者さんから聞き出す項目を挙げている。これを私たちも知っておくことで、より正確に病気の診断を手助けできるかもしれない。それが以下の6つだ。

・きっかけ
・どのようなときによくなったり悪くなったりするか
・症状のひどさ、強さ
・場所や広がり(どこに痛みが広がるか、放散するか)
・他にどんな症状があるか
・時間による変化

 これらをきちっと説明できれば、お医者さんや看護師さんも助かるだろうし、私たちが病気を克服する時間や苦しみも軽減し、さらには重篤な病気を見逃す確率も減るだろう。ぜひ覚えておきたいところだ。

 医療現場というのは実に過酷だ。人の命をあずかる現場なので、絶対にミスは許されない。一方、私たち患者は苦しくて訪れているので、日常でできている人との接し方が病院ではできないこともある。最近ではコンビニ診療や高齢者の医療負担なども問題になり、ますます現場が疲弊しているように感じる。これは負の連鎖ではないだろうか。

 本書に書かれている内容は医療従事者向けなので少々難しいが、私たちが知っておいて損のない知識がいくつかある。先に挙げた「痛みの情報収集の基本」ができれば、お医者さんも私たちも助かって良いことばかりのはずだ。

 本書が医療と患者をつなぐ架け橋の1つになるかもしれないと、私は感じている。

文=いのうえゆきひろ