「漢方」の理論と知識を分かりやすく解説! 四代続く老舗漢方薬局のお嫁さんが健康になるための知識をお裾分け!

健康・美容

公開日:2018/7/17

『漢方嫁日記: 老舗漢方薬局のお嫁さんになって学んだ体の整え方』(ふかやかよこ/河出書房新社)

 医療関係の本を取り上げるさいには選ぶにあたって、ある種の困難がつきまとう。命に関わることであるからトンデモ本は避けたいし、さりとて難しい専門書では私の理解が追いつかず紹介できない。そのうえ、何冊か読んでいるうちに中途半端な知識がついて、一般的な分かりやすい基準の見当がつかなくなってしまった。そう思っていたところ、『漢方嫁日記: 老舗漢方薬局のお嫁さんになって学んだ体の整え方』(ふかやかよこ/河出書房新社)を見つけた。

 ジャンルとしてはエッセイ漫画であろう本書の最大の特徴は、作者が老舗の漢方薬局に嫁いだ素人なこと。初心者向けに書かれた漢方薬の入門書でも、著者が専門家だと解説が先に立ち、読者の側はよく理解できないまま読み進めるしかないなんてことがある。やはり学習まんがには聞き役が必要で、しかもその聞き役が便宜的に設定したキャラクターではなく、作者本人なため読者も共感しやすいのではないか。

 オタク趣味がキッカケで旦那さんと付き合い始めた作者は、交際してしばらくしてから旦那さんが漢方薬局の四代目と知った模様。そんな作者の漢方薬への偏見は、「草とか根とか自然で食べ物の延長的な!」だの「体質改善とか病院で治らない人の最後の手段」などで、私にも身に覚えがある。しかし、旦那さんが漢方薬に入っている物はどれかと出題したクイズで提示された物の中には、「磁石」や「かまど」といった明らかに飲めないのではと思われる物があれば、「しょうが」とか「シナモン」などの馴染みのありそうな食べ物も入っているものの、いずれも漢方薬に使われる「生薬」である。こういう、キャッチーなネタがちりばめられているのが面白い。

advertisement

 そして本書で扱っている漢方薬は、中国から入ってきて日本でアレンジされた「和漢」あるいは「日本漢方」と呼ばれている物とは違い、紀元前から伝わるとされる「中国伝統医学」(中医学)なのだが、その基礎理論となる「弁証論治」や「気・血・水」に、「陰陽説」と「五行説」の解説もある。おそらく他の入門書で読者がつまずくのはこの辺りと思われ、作者も五行説の五芒星について、どの漢方の本にも「このファンタジーな図が入ってて胡散臭くて読むのやめちゃうんだわ!」との台詞を漏らしていた。対する旦那さんの解説は、作者とオタク趣味を共有しているおかげなのか、それとも旦那さんのウンチクを程良い加減で止める作者の手腕か、他の入門書と較べて分かりやすかった。もちろん、そのウンチクをもっと知りたいという人向けに、漫画の合間には旦那さんによる詳しい解説ページもある。

 ところで、作者は両親から「ずっと健康で入院も大病もなく丈夫に育った」と云われたことも手伝って、長いこと自分を健康だと思っていたという。しかし実は「便秘×年齢」で、それを体質とか不摂生の結果と考え「ガマン」しており、旦那さんは「未病あるあるだねぇ」と述べていた。未病とは「何となく不調だけど病院に行くほどでもない状態」のことを指し、「悪化したなら病院行けば…」と呟く作者を、旦那さんは「病気のせいで減った体力や変わった体質はそう簡単には戻らないよ」と諭す。

 私としては、作中に何度も出てくる「相談」にも焦点を当てたいところだ。そもそも作者が漢方薬を避けてきたのは、昔に風邪をひいて発熱したさいに葛根湯を飲んだところ、動悸がして悪化したからなのだそうで、それも今では「風邪=葛根湯って飛びついちゃダメね」と反省していた。これは、西洋薬も同じこと。市販の薬は薬機法によりパッケージに書ける文言が厳しく制限されているから、書かれていない情報を知るためにも自分で選ぶより、薬剤師や登録販売者に相談したほうが良い。その意味で本書は、漢方薬のことだけでなく、自分の健康について専門家にどう相談するかの参考にもなるだろう。

文=清水銀嶺