目標を継続できないのは、意志が弱いからじゃなかった!? 脳と記憶のマネジメントとは?

暮らし

公開日:2018/7/19

『頑張らずにうまくいく 自分を変える「脳」の習慣』(宇都出雅巳/SBクリエイティブ)

 ダイエット、資格試験や転職活動など、人にはいろいろな目標設定がある。いざ取り掛かってみるのだが「続かない」「自信がない」「失敗にクヨクヨする」など、意気消沈、いつの間にかフェードアウト…という経験はないだろうか。

『頑張らずにうまくいく 自分を変える「脳」の習慣』(宇都出雅巳/SBクリエイティブ)は、脳科学における“記憶をマネジメントすること”に主眼を置き、自信、行動力、感情コントロールなどのパフォーマンス向上のための対処法を解説する。自分にどんなアプローチをすると「頑張らずに」なりたい自分に近づけるのかがわかる1冊。

 最初に確認するが、人の行動や考えは全て“自分の意志”が働いていると思っていないだろうか。しかし、著者は「意志で頑張るには限界がある」と話す。それは人の意識と脳の反応の相関実験に基づいており、人の意識決定よりも“脳の行動判断のほうが早い”という結果が出ているからだ。

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 いったい、人をコントロールしているものは何か? 「意識」について考えたことがあるだろうか。人の意識には2種類ある。ひとつは自分が意識している「顕在意識」。もうひとつ、普段は意識もしない「潜在意識」における“記憶”こそが、実は自分をコントロールしている正体なのだ。

 潜在意識に蓄えられた記憶は私たちがあえて思い出そうとしなくても、勝手に思い出されています。記憶は知らず知らずのうちに思い出されるので、われわれは記憶に動かされていることに気づきませんが、この「記憶」にわれわれは動かされているのです。(略)われわれは「今」という新しい世界を生きているようで、実は過去を引きずり、自分の記憶の世界を再現し生きているのです。

 知らないうちに記憶の働きによって自らの人生が形成されていたとは、なかなか衝撃的だ。しかも脳は、記憶から「失敗経験」を自動検索してくるという。それは脳の性質にあるそうだ。古代、生き延びるためには必須のテーマ、エネルギーを浪費しない=アクションを起こさない=できないことにしておくのがラク、という本能的な連鎖が前提にあるのだ。自信のなさや、言い訳、継続できない理由がここで明らかになる。

 結局、あなたが「できない」と感じてしまうのはあなたの性格に欠陥があるからではなく、ただただ脳がラクをしたがっているだけ。(略)まずはそのことを知って、「できない」自分を責めるのはもうやめましょう。あなたが変えるのは「自分」ではなく「記憶」です。

 具体的には、生活の小さなことで構わないので「まず一つ、できることに取りかかる」ことが重要だそうだ。それが「できない」という記憶を「できる」にアップデートしたことになり、自信や行動力に繋がっていく。

 自信は意外と手っ取り早く高められる方法がある。単純に体の動きやポーズでも“最高の精神状態と記憶”を結びつけるといいそうだ。メンタルトレーニングの手法のひとつで「アンカリング」と呼ばれている。スポーツ選手が用いることが多く、野球のイチロー選手の打席でのポーズ、ラグビーの五郎丸選手のキック前のポーズの例が、本書でも取り上げられている。さらに最も簡単にできることとして「背中を伸ばす、体を伸ばすだけでもOK」とのこと。これさえ覚えておけば、面談やプレゼンなどのビジネスの現場でもすぐ活用できそうだ。また、気に入ったものを身に着ける、テーマ曲を決めておくといったことでも奮起を促すことができるという。

 このように本書では「続けられる自分」「行動力のある自分」「ミス・失敗だらけの自分を変える」など、意志に頼ることなく、新たな自分を構築していく習慣のコツが満載だ。

 著者の宇都出雅巳氏は30年にわたり、記憶術と速読を実践研究。脳科学や心理学、認知科学から独自のコミュニケーション法や勉強法を確立した教育研究所代表。企業研修や講座、執筆を行っている。

 今、やりたいことはなんだろう? 「できる」記憶を味方につけて、今度こそ目標達成だ。

文=小林みさえ