「子どもに殺される」精神疾患の息子のDVに怯える母親の悲惨な選択とは? 衝撃のノンフィクションが漫画化!

マンガ

更新日:2018/8/6

『「子供を殺してください」という親たち』(原作:押川剛、作画:鈴木マサカズ/新潮社)

 親にとって、子どもは最愛の宝物……そんな綺麗事をあざ笑うかのように、毎年親による子どもの虐待死事件は発生し続けている。18年6月には、ネグレクトの果てに「おねがい、ゆるして」と悲鳴のような反省文を書かされていた5歳の女の子が義父と実母から虐待され死亡したという、痛ましい事件が大きな注目を集めたばかりだ。

 一方で、「子どもに殺される」と怯える親もいる。押川剛によるノンフィクション『子供の死を祈る親たち』(新潮社)では、理由は様々ながら精神に変調をきたし、暴れ続ける子どもを支えきれなくなった親たちが登場する。児童虐待問題の被害者は幼い子どもだが、子どもによる家庭内暴力問題の被害者は、年老いた両親やその家族だ。

 児童虐待問題との最大の差は、被害を受ける親の側にも問題がある場合があることだろう。様々な理由から、子どもを“モンスター”に育ててしまったのは、被害者である親自身というケースも多い。そして自らが被害を受けつつも、見栄や外聞、現実逃避から問題を先送りし続けた挙げ句、ついに「子どもの死」を願うほどに追い詰められてからようやく、押川が開設した「精神障害者移送サービス」にすがりつくのだ。

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 押川原作の書籍を、鈴木マサカズ作画により漫画化した本書『「子供を殺してください」という親たち』(新潮社)。第3巻では3つのケースが取り上げられる。とはいえ3つ目「家族の恐怖は永遠に消えない」編は前編となる1話分のみの掲載で、物語は完結を見せていないため、実質は2つのケースが紹介されている。

「依頼にならなかった家族たち」編は、アスペルガー症候群など複数の精神疾患と診断された人物によるDVに耐えかねた母親からの依頼を受けるも、最終的に契約までいたらず、その数年後にその家族の破綻をニュースで知り……といったエピソード。相談を受けた際、押川は母親に「マンションを売れるか」と持ちかけるが、母親は「そんな金がかかるなら、いっそ息子を殺してくれ」と答える。母親の覚悟を試すための質問に返されたのは、絶望的な保身と逃げの回答だった。

 第3巻のメインエピソードとなる「『ふつう』の家庭に育つ闇」編は、一見何の問題もなく成長したと思っていた息子が、失恋をきっかけにストーカー化、ついには殺人願望と自死願望を見せ……といった内容。「自分の子どもが人を殺めるくらいなら、いっそ自分が息子を……」。父親の悲痛な相談を受けながら、押川は真面目な両親と子どもたちが作り上げた「家族内の空気」を見抜き、親の本音を息子にぶつけるよう促す。

 押川はあくまでも、精神科医療、専門医による治療により社会復帰を目指す、その「つなぎ役」でしかない。しかし本人の同意がなければそれも難しく、そのために様々な説得、介入を試みる。そうした活動の中で、問題を抱える子どもの側だけではなく、「子どもを殺してでも」とすら言ってしまう追い詰められた親の側にもスポットライトを当てていく。

 親の“落ち度”も様々で、ほんの少しのすれ違いが積み重なっていく場合もあれば、その子育て方法や親の思考こそが問題の原因という場合もある。すべてがケースバイケースであり、明確に誰の責任といえるものでもなく、また解決に至らず悲惨な結末を迎えることもある。

 そうした実例をもとに描かれたノンフィクションであるだけに、本書の読後感は非常に重い。鈴木マサカズの抑制されたタッチも拍車をかける。しかしこうしたどうしようもなさ、読後感の重さこそが本書のテーマを示している。作品として、マンガとして“きれいにまとめる”ことをせず、後味の悪さをそのまま描くスタンスこそが、現実問題としてのDV、精神疾患、引きこもり、ストーカー、薬物中毒といった諸問題の難しさを表しているのだ。

文=佐藤圭亮