3時間の大演説で、枝野幸男議員が伝えたかったこと――「民主主義は多数決ではない」「真の『保守』とは?」

社会

2018/8/21

『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(解説 上西充子:著、解説 田中信一郎:著、ハーバービジネスオンライン編集部:編集/扶桑社)

 発売前からAmazonの売れ筋ランキング「政治」カテゴリで1位になっていた本がある。『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(解説 上西充子:著、解説 田中信一郎:著、ハーバービジネスオンライン編集部:編集/扶桑社)だ。

 第196回国会の最終日である2018年7月20日、野党は共同して内閣不信任案を提出した。その際枝野幸男議員は、野党第一党の立憲民主党代表として、不信任決議の趣旨説明演説をおこなった。演説時間は、平均的なハリウッド映画よりも長い2時間43分。記録が残る1972年以降、最長だ。

 同国会は2018年1月22日に始まったが、高度プロフェッショナル制度やIR法(カジノ法)などが採決されていき、とくにIR法の成立は地震や豪雨で被災した人への災害対応よりも、優先された印象があった。枝野議員はこれらに加えて「アベノミクスの失敗」「森友・加計問題」「ごまかしだらけの答弁と、民主主義を無視した強行採決」「行き詰る外交と混乱する安全保障」「官僚システムの崩壊」の7つを取り上げ、なぜ内閣を支持しないかについて指摘した。

 枝野議員の演説をフィリバスター(議事妨害)と揶揄する声もあるが、1つ1つの項目を読み解いていくと、5年半にわたる安倍政権の何が問題だったかが見えてくる。また枝野議員の言葉からは、「同じ場所にいる人たちに、そしてメディアを通して聴いている人に、とにかく伝えたい」という思いが伝わってくる。

 演説内容についてはぜひ同書で確認してほしいが、特徴的なのは枝野議員が、民主主義は多数決ではないと明言していることだ。

そもそもが、民主主義は多数決ではないんですよ。主権者である国民みんなでものを決めて国を動かそうというのが民主主義なんです。

民主主義で、みんなで決めたいんですが、残念ながら、1億2000万を超える国民の皆さんがみんなで集まって相談をすることができないので、やむなく、仕方なく、それを補う手段の一つとして、選挙という多数決が使われます。

なぜ、民主主義において多数決という手段が使われるのか。それは、多数の言っていることが正しいからではありません。熟議を繰り返した結果として、多数の意見であるならば、少数の意見の人たちも納得するからです。少数意見の人たちも納得するための手段として多数決が使われるんです。少数意見を納得させようという意思もない多数決は、多数決の濫用です。多数決が少数の人たちを納得させる手段として正当性を持つためには、多数決の前提として、正しい情報が開示されなければいけません。

 与党はIR法や高度プロフェッショナル制度などについて、野党に「正しい情報」を果たしてどれだけ開示したのか。十分な議論を重ねないまま、天災で人々が苦しんでいる間に「多数決で決まったから」と拙速に成立させていくやり方は、決して民主主義ではない。ましてや「国会の多数決で決まったのだから、国民は従え」という発想自体がおかしいということが、枝野議員の言葉から読み取れる。

 そしてもうひとつ特徴的なのは、枝野議員が安倍政権を「保守にあらず」と断じている点だ。

 7世紀末の持統天皇時代にすごろく禁止令が発令されて以来、日本の法制度では賭博は違法だった。公営ギャンブルは財源確保という名目で例外扱いだったが、カジノは1000年以上も違法とされてきたもので、利益をあげることになる。このことを「みっともない政策」だと枝野議員は言う。その上で、

持統天皇以来の歴史を一顧だにもせず、こんなばかげた制度を強行する人たちに保守と名乗ってほしくはありません。

保守の本質は何か。それは、人間とは不完全な存在であるという謙虚な人間観であります。

人間は、全ての人間が不完全なものであるから、どんな政治家が、どんな良い政治をやろうとしても、完璧な政治が行われることはあり得ない、常に政治は、社会は未完成、不完全なものである。それが、人間は不完全なものであるという謙虚な姿勢に基づく保守の一丁目一番地です。

今の自民党安倍政権は保守ではないというのは明確であるというふうに思いますが、(中略)間違っているのではないかという常に謙虚な姿勢を持ち、そして、みずからを省みながら一歩ずつ世の中をよくしていく、これが保守という概念の本質であります。

 つまり「持統天皇以来築いてきたものを破壊しようとする自民は、保守ではない」というのが、枝野議員の主張だ。

 同書はリベラル系の出版社ではなく、安倍政権支持の産経新聞を擁する、フジサンケイグループの扶桑社から刊行された。しかし編集したハーバー・ビジネス・オンラインは「忖度しないWebメディア」を標榜していることからも、「真の保守とは何か」ということが読み取れるのではないか。

 同書の初版は正誤表が添付されているほど誤字が多く、さらにそこに載っていない間違いもあった。だがいずれも十分に意味は取れるし、校正にこだわるよりとにかく1日も早く、多くの人に読んでほしかったのだろう。演説からわずか3週間程度で本にまとめた、関係者の情熱に敬意を表したい。

文=碓氷 連太郎