「家族の絆」を押し付けないで。毒親から逃げ延びた元・子どもたちの体験談

出産・子育て

2018/9/10

『毒親サバイバル』(菊池真理子/KADOKAWA)

「わが子を大切に思わない親はいない」「家族は必ずわかりあえる」一見すると正しいように思えるこれらの言葉は、果たして本当にすべての家族に当てはまるのだろうか? 当てはめてしまっていいのだろうか?

『毒親サバイバル』(KADOKAWA)は実の親に苦しめられ、それでもどうにか家から逃げ延びた元・子どもたちの体験談を集めたノンフィクションコミックだ。著者の菊池真理子さんも、アルコール依存症の父に振り回されて育った毒親サバイバーの一人。実体験を描いたデビュー作『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店)はさまざまなメディアで取り上げられて注目を集めた。

 そんな著者が今度は自らと同じように「おかしな家」で育たざるを得なかった元・子どもたちを取材。彼や彼女がどんなふうに家から逃げ出し、つらい過去を乗り越えてきたかをマンガ化した。

 本書に登場する元・子どもたちの物語を読んでいくと、家庭環境はそれぞれまったく違うことに気づく。一人っ子がいれば5人きょうだいもいるし、核家族、大家族、シングル家庭と家族構成もさまざま。今現在の職業も、会社員、主婦、タロット占い師、AV監督と多岐にわたっている。

 10人のサバイバーの中には、BuzzFeedの医療記者である朽木誠一郎さんも登場。WELQ問題の火付け役にもなった敏腕記者が、「将来は医者一択」という価値観を押しつけ続けた母親との過去を公の場で初めて告白している。

 泣き落とし、脅迫、怒号。息子を思い通りに支配しようとする母の圧に苦しめられながらも、気づけば同じように他人を見下す人間になっていたという医学生時代。だが、挫折を知り、外の価値観に触れたことで、大人になった朽木さんは両親と決別する道を選ぶ。

愛でもしつけでもなく、「弱い者いじめ」

「毒」を撒き散らすのは父や母だけではない。祖父母が孫を追い詰めるケースもある。「お前は家族の最下位だ」という言葉で孫娘をけなし、殴る蹴るの暴力を振るい続けた祖父。絶対君主として孫息子に異様な行為を強要する祖母と、それを見て見ぬふりした父母。

 母が息子を、父が娘を、祖父母が孫を、さまざまに圧をかけて追い詰め、傷を負わせるさまは、弱い者いじめ以外の何物でもない。それは愛やしつけとは遠く離れたところにある、ただの理不尽な暴行だ。

 本書に登場する別の男性は、「鍵の音が怖かった」と幼少期を振り返る。理由は、「あの音がしたらもう家からは出られない」から。鍵がかけられる音は、家が逃げ場のない密室に変わる合図だった。無力な子どもにとって、その音がどれほどの恐怖と絶望だったかは想像に難くない。

「家族は絆で結ばれる」という思い込みの暴力性

 だが、本書は虐待被害の詳細を訴えるマンガではない。無力だった子どもが成長した後にどんな風に自らの傷に向き合い、自分を立て直そうと奮闘してきたのか。親と決別した後の人生をどう生きるか。それこそが真のテーマであり読みどころだ。

 著者の菊池さんは本書の出版にあたり、次のようなコメントを寄せてくれた。

「つらい家庭で育った子どもたちが、頑張って大人になって世間に出たときに、『親なんだから心配している。帰ってあげないなんて親不孝』『いつまでもトラウマなんて言ってないで、親のこと許してあげたら』そんなことを安易に言わない世の中に、少しずつでも変えていけたら。さんざん家族に傷つけられてようやく外の世界に出た人が、これ以上傷つけられない世の中になってほしいと思っています」

 すべての家族が愛に満ちているわけではない。家族の絆という「美談」「常識」を押し付ける行為が、他人を傷つけてしまうこともあるのだ。

 内容はずっしりとヘヴィだが、柔らかな線とマンガだからこその軽やかさ、そして何よりも「子ども」側に一貫して寄り添う著者の眼差しの優しさに救われる。家族との関係に悩むすべての元・子どもたちに希望を与えてくれる一冊だ。

文=阿部花恵

著者プロフィール
菊池 真理子(きくち まりこ)

埼玉県生まれ。2017年、アルコール依存症の父と家族のノンフィクションコミック『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店)が大きな話題に。『毒親サバイバル』が二作目の作品となる。@marikosano_o