もういちど読みたい恋愛マンガは？

公開日：2018/9/15

　電子書籍配信サービス「ブックパス」では現在、名作恋愛マンガの読み放題企画を開催中。第１弾の矢沢あい『Paradise Kiss』、第2弾のおかざき真里『サプリ』に続くトリを飾る第3弾は、少女マンガ界の異才、ジョージ朝倉の『ピースオブケイク』。オトナ男女の体当たりラブ&ピースな世界に打ちのめされろ!!

『ピースオブケイク』（全5巻）
ジョージ朝倉　祥伝社
バイト仲間との浮気がばれ、粘着質な恋人・正樹から振られた志乃。心機一転しようと引っ越した先で隣人の京志郎と出会う。新たな職場の店長でもある彼に強く惹かれるものの、その恋人・あかりから牽制される。しかしあかりがある日家出して、傷心の京志郎を慰めるうちに一線を越えてしまう……。
＊読み放題期間 9／30（日）23：59まで

　パワフルにして繊細な絵、大胆な構成とポエティックな言葉の感覚、そして熱く激しく力強く展開される世界観──少女マンガ誌のみならず青年誌でも活躍し、最新作『ダンス・ダンス・ダンスール』も大反響を呼んでいるジョージ朝倉。

　10代の少年少女たちの物語を得意としてきた筆者が、20代女性の恋愛というテーマに本格的に挑戦したのが『ピースオブケイク』だ。『FEEL YOUNG』で2003年から約6年間にわたって連載され、2015年には田口トモロヲ監督、多部未華子＆綾野剛というキャスティングで映画化もされている。

　主人公・梅宮志乃は流され体質の24歳。高圧的な恋人・正樹との泥沼のような関係を終わらせて、住まいも仕事も変えて人生を仕切り直す。引っ越し先の隣人・京志郎が店長を務めるレンタルビデオ店で働くことになり、惹かれるものを感じるけれど彼には同棲中の恋人・あかりがいる。しかし、あかりが突然失踪し、必然的に京志郎と恋人関係になるのだが──。

　5巻から成る本編は3つの構成となっている。前半は、志乃の京志郎への片想いが報われるまで。中盤は、恋人同士となったふたりが関係性を深めていくまで。そして後半は、京志郎との破局後、ボロボロになった志乃が再び浮上するまで。

　恋愛の初期衝動と高揚が躍動感いっぱいに描かれる前半。あかりの不在を常に意識しながらも、京志郎との間に芽生えてくる愛情を大切に育んでいく中盤。思いがけない形で京志郎の不実が発覚し、彼の許を飛び出して地獄めぐりのような体験をする終盤。

　一つの物語でありながら、各パートごとに雰囲気がさながら万華鏡のように変わっていき、主人公である志乃を筆頭に登場人物たちもまた変化する。

　京志郎を好きになればなるほど彼への不信感も強まって、あれほど嫌悪していた元カレ正樹と同じ行動（ex.携帯電話を盗み見）をとってしまう志乃。志乃への気持ちを深めながらも、情が濃く優柔不断な性格ゆえに、あかりとの関係を断ち切れない京志郎。そんな京志郎につけ込みながらも、彼の存在が唯一の拠りどころになっているあかり。

　三者それぞれにそれぞれの言い分がある。主人公目線からすれば憎まれ役にあたるライバル・あかりの背景などは志乃以上に描き込まれていて、彼女もまた彼女なりに京志郎を愛していることが伝わってくる。

　ジョージ朝倉作品に共通している、人を裁かない視点。立場が変われば世界も変わるという冷静かつ優しいまなざしがすべての人物に注がれている。従って一見シンプルな三角関係がどんどん複雑に、ディープな様相を呈してゆく。

　京志郎と別れて自暴自棄になった志乃は、底の底に落ちているさなかに自分自身を見つめる。これまでずっと流されるように男と付き合ってきた自分。淋しさを紛らわせる手段として恋愛を使ってきた自分。だけど、ただひとりの例外が京志郎だった──。あかりも志乃もそれを自覚したとき、すでに彼を失っていたというビターな気づきがまた皮肉だ。

　物語の最後の最後で志乃は京志郎と再会し、抱擁と口論の末、夢のような結末を迎える。それは現実とも幻想とも、イメージの氾濫ともつかない、とても美しく、とても平和な着地点だ。

　いったいどんなラストシーンなのか。ぜひ「ブックパス」にて確かめてみてほしい。

文＝皆川ちか

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