32歳で初期乳がん、胸の部分切除…。独身だし、将来どうなるの――体験を元に描いた乳がん闘病コミックエッセイ

健康・美容

2018/9/19

『32歳で初期乳がん 全然受け入れてません』(竹書房)

 乳がん、といわれて思い出すのはやはり、故・小林麻央さんのことだ。麻央さんは、超音波検査などでしこりが見つかったとき、がんである確率は「五分五分」といわれたという。『32歳で初期乳がん 全然受け入れてません』(竹書房)の著者・水谷緑さんも、最初は「良性であることの確認と思ってください」と医師にいわれた。だが結果は、初期の乳がん。「ステージ0か1だと思うので命に関わる可能性は低い」といわれたものの、衝撃を受け止めきれなかった。

 6年前に膵臓がんで父を亡くしたことも大きかった。余命宣告されてもそれまでと変わらず明るくアクティブに生活していた父の、突然の急変。副作用により抗がん剤が使えなくなり、転移も見つかり、「人って突然死ぬんじゃない だんだん死んでいくんだ」と静かに実感するほどゆるやかに、だが確実に父は死に近づいていった。その過程を水谷さんは、間近で見続けていた。

 その経験から水谷さんが得た教訓は「人はマジで死ぬ」。だからこそ動揺した。ステージ0だとわかっても「ぜんぜん大丈夫」にはなれなかった。「がん=深刻な病」と煽る情報ばかり目に入るし、人に打ち明けると、ぎょっとされることも多かったからだ。過剰に心配されると見下されているような気分になるし、気を遣って触れない人にはそれはそれでもやっとする。病気って、人間関係のリトマス試験紙だ――。そう思ってしまった水谷さんの反応こそが実は過剰なのだけど、気持ちはよくわかる。

 彼氏の対応が他人事に感じて、理不尽に怒りをぶつけたり、家族と衝突してぎくしゃくしたり。そんな経験は病気でなくても、誰しも一度や二度はあるはずだ。自分がどうなろうと世界は何も変わらない。相談に乗ってくれた直後に友人がSNSで軽い投稿をしていても、責められることじゃない。わかっている。だけど「人は人」という理性と「100%寄り添ってほしい」という感情がぶつかりあう。そんな水谷さんのことも、誰も責めることはできない。

 それに命に別状はなくても、水谷さんは胸の部分切除をしなければいけなかった。女性にとって胸は一種の象徴だ。妊娠しづらくなるかもしれない。彼氏に引かれてしまうかもしれない。今の彼氏が受け入れてくれたとしても、もし別れたら? 自分を好きになってくれる人はいるだろうか。家庭はもてるのだろうか。不安まみれの水谷さんに手術の担当医は言う。「考えてもしょうがない」「そんなに他人に見られる機会ある?」。

 絶望というよりも、水谷さんはずっと悲しかった。どうしてこんなことになったんだろうと、境遇に腹が立ってしかたがなかった。幸いなことに、その後、別のよいお医者さんにも恵まれて、手術と治療を無事終えることができたが、再発の可能性はゼロじゃない。心は常に、揺れ続ける。生きるというのはおそらく、そういうことなのだろう。水谷さんの心の揺れが痛いほど伝わってくるからこそ、よけいに本書を他人事だとは思えない。

 病状や治療方法は人それぞれ。著者の言うとおり本書はあくまで「1人のケース」だ。それでも病気になって誰にも理解してもらえない不安や苦しみを抱える人や、自分だけは大丈夫と理由なく思ってしまっている人に、ぜひとも手にとってほしい一冊である。

文=立花もも