日本の食卓、そして「米」が危ない!? 種子法廃止で忍び寄る遺伝子組み換え米

社会

公開日:2018/10/11

『タネはどうなる⁈』(山田正彦/サイゾー)

 毎年10月中旬に伊勢神宮で行われる神嘗祭(かんなめさい)は、その年の初穂を天照大御神に奉納する五穀豊穣の感謝祭である。このように日本人にとって「米」は古来より、神様とのパイプラインでありまさにソウルフード。何があろうとも伝統を守り続けるべき、聖域なはずである。

 しかし、昨年4月、マスコミと世論が森友学園問題一色となっている隙間を縫って、ある法律が密やかに成立していたのである。しかもそれは、日本の伝統と日本人の食卓の未来にとって、すごく重要なことを決める法律だった。それが「種子法の廃止」である。そして、今年4月1日、ついに種子法は廃止された。

 これが一体何を意味し、日本の伝統や食卓をどう脅かすのか、そのことを詳細に教えてくれる1冊、『タネはどうなる⁈』(山田正彦/サイゾー)をご紹介しよう。

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 本書には、これまでどのように日本の種が守られてきたか、種子法の説明とそれが廃止に至った経緯、民間種子会社の参入とその成果物である米や野菜の日本における栽培・流通の現状、遺伝子組み換え作物に対する政府の考え方や現状など、日本人が知っておくべき食の現状と未来がコンパクトにまとめられている。

 以降に記すことはすべて、本書に記されていることをまとめたものだ。

■日本のお米が「モンサント型ビジネスモデル」に支配される!?

 種子法とは、「米、麦、大豆」の種子を、国が農業団体や農家と共に厳格に守ってきた法律でありシステムだ。これにより私たちは、安心安全な純日本産の伝統の米を食べることができたし、農家も安い価格で種を買うことができた。

 この長年続いた法とシステムが廃止はすなわち、これまで聖域とされてきた米の種子の自由化宣言であり、国内外の民間会社が自由に「米、麦、大豆」の種子ビジネスに参入することを意味し、すでに、始まっているのである。

 民間の種子会社の参入で何がどう変わるのか? 著者がまず懸念するのは「モンサント型ビジネスモデル」による農業支配だ。

 モンサント(今年8月にドイツ企業バイエルンの子会社になった。日本法人は日本モンサント)は農薬製造・遺伝子組み換え技術を有する化学品会社でありながら、世界の種子ビジネスのトップシェアに位置する。そのモンサントが築いたビジネスモデルとは、「種子と農薬、化学肥料をセット販売する」商法だ。

 現状の日本でいえば、住友化学の子会社、住化アグロソリューションズが「つくばSD」という種子で米を作らせ、収穫した米をすべて買い上げて、セブンイレブンのおにぎり用に販売している。著者は、「つくばSD2号」を栽培する農家を取材し、「モンサント型ビジネスモデル」が導入されている現状を突き止めているという。

 こうした米は、コンビニ販売用など用途に合わせて品種改良が行われるため、その段階でゲノム編集や遺伝子組み換えが行われる可能性も十分にあるのだそうだ。

 日本では他にも、日本モンサントの「とねのめぐみ」、三井化学の「みつひかり」といった米が今後、日本でシェアを伸ばすことが予想されるという。

■政府の「ゲノム編集は遺伝子組み換えではない」という謎の見解

 ゲノム編集に関しても、著者は大きな懸念を本書で訴えている。それは国が「ゲノム編集は鎖を切るだけなので、遺伝子組み換えではない」という見解を示しているからだ。

 専門的になるため詳細は避けるが、ゲノム編集も遺伝子組み換えも、結果としては「自然発生的には起こらない生命現象」をつくるという点では同じだ。なのに「ゲノム編集は遺伝子組み換えではない」がまかり通れば、それを抜け道にしてゲノム編集食品は米であっても表示しない、つまり、一般人にはまったく知らせないということになる。

 本書には、遺伝子組み換え食品の未知なる恐怖についても詳しく記されているので、ぜひ参考にしてほしい。

 ここまでのことをまとめると、今後の日本には、聖域である「米」においても、化学系の多国籍企業が参入し、将来的に農家を支配し、食品産業と食卓を席巻する可能性が大いに高いということ。さらには、日本は今、遺伝子組み換え食品大国になる方向にかじを取っているという現状だ。

 また本書は、野菜の種に関しても触れている。日本のスーパーで年中売られる野菜の種のほとんどが、モンサント社など大手種子会社経由である現状が記されている。

 最後に、著者について紹介しよう。山田正彦氏は、2010年に農林水産大臣を務めた政治家、弁護士で、過去には牧場運営をしながら有機栽培農法の研究団体も作ったこの分野の専門家でもある。種子問題に真剣に取り組む第一人者で、本書に記されていることは、単なる推測や憶測ではなく、省庁や農業団体、農家、民間種子会社などへの取材を通して得た事実がベースにある。

 それだけに悲痛ともいえる日本の農業の現状、そして不安だらけの食の未来。だからこそ著者は、注意喚起と共に行動することを訴えている。一般市民の私たちにできることが、本書の最終章にまとめてある。ぜひ、本書を手に取り、日本のお米、農業について改めて考えてみてはいかがだろうか。

文=未来 遥