お金は寂しがりやって知ってた? 「お金のプロ」が語る新しいお金の循環の考え方とは?

暮らし

2018/11/1

『いま君に伝えたいお金の話』(村上世彰/幻冬舎)

 まだ“金融教育”なんて言葉もなかった昭和時代。思い返せば普通預金の金利でさえ、今となっては信じられないくらい高かった。だから大半の家庭で子どもに対するお金の教育といえば、無駄遣いしない、とにかく貯金しておく、という程度のことで、大事な大事なお金は“口座に貯めて膨らます”のが基本だった。もし、子どもがお金について口出ししようものなら「子どもは知らなくていい」と蚊帳の外だったことも記憶している。

 だが、投資家であった『いま君に伝えたいお金の話』(村上世彰/幻冬舎)の著者の父は違っていた。著者がまだ幼い頃から「お金は寂しがりやなんだ」と話し、仲間のところに行きたがり、増え始めると一気に集まってくると教えられ「父はお金について、僕が小さな頃からとてもオープンに、とてもわかりやすく教育してくれた」という。

 そのひとつなのだろう、著者が10歳の時に、父から“大学を出るまでのおこづかい”をなんと、まとめてもらうことになる。小学生には大金のそのお金をどうしたか。当時、既に「貯金魔」でお金についていろいろ考えることが好きだった少年(著者)は、株式投資の元手に活用して初めて株を手に入れた。以来「お金とその流れ」に強く興味を持ち、新聞や株の専門誌などから情報を収集しながら、深くお金の世界を学んでいくことになった。

 そして今では「お金のプロ」として「社会を豊かにするためには、お金が社会のなかをめぐることがとても大切」であり「稼いで貯めて、回して増やす」というお金の循環が必要だという考えに著者は辿り着く。これからの日本の社会や個々の幸せを見据え、これまで各所で行ってきた「お金の授業」をベースにお金との上手な付き合い方や、新しい働き方や考え方をまとめた1冊である。

 なぜ、貯めるだけではもうダメなのか。著者は説明する。

血液が全身をくまなくめぐることで人の健康が保たれるように、社会もお金が回ってはじめて健康でいられる。にもかかわらず、日本人も日本の会社も、お金を使うことより、貯め込むほうを優先している。血液をめぐらせずにどこかで大量に貯め込んでしまったら、身体はどうなると思いますか? これを想像すれば、いまの日本が健康な状態ではないことはすぐにわかると思います。

 著者は「物言う株主」として著名な元ファンドマネージャーの投資家であるが、もっと遡れば元々は通産官僚だった頃に日本企業や経済の在り方を案じて、民間の1プレーヤーへと転身した経緯がある。現在では、財団を創設し「日本の社会的課題の解決にも貢献していきたい」(財団HPより抜粋)と、非営利活動法人への支援を通しての社会全体に関わるセーフティネットの整備、さらにライフワークとして、子どもたちへの投資の教育や啓蒙をする「お金の授業」を開始し、日本各地の学校などに招かれ活動を拡げている。

 文章もやさしい言葉を選び、小学校高学年にも理解できるような語りかけとなっている。特に3章「君がお金を手にする方法」や4章「働き方が大きく変わる」は、親世代には意識改革を促し、子どもには将来を考える良い指針となるだろう。さらに6章「お金と向き合うための覚悟 お金が凶器に変わるとき」では奨学金の返済問題や教育・住宅ローンなどを取り上げ、安易な利用に警鐘を鳴らしている。親子で読めば社会に使われているお金や家庭で必要なお金などについて、家族で話し合うきっかけにもなるのではないだろうか。

 社会に出れば使わない日はない大切な道具であるのに、ほとんどの学校で教わることのないお金の話。将来、お金で苦労したくない若い人にぜひ読んでほしい。親の世代とは違うお金との付き合い方のヒントがたくさん見つかるはずだ。そして、すっかり大人になってしまった人も、今のお金との関わり方が自己の“幸せ”や“価値判断”に本当に合致しているのかを突き付けられるだろう。

 誰もがお金と自分について、改めて全力で考え尽くすことが必要なときが来ている。

文=小林みさえ