誰もがなり得る「ひきこもり未満」。今働いている人もレールを外れてしまうと…

社会

2018/10/18

『ルポ ひきこもり未満 レールから外れた人たち』(池上正樹/集英社)

 近年、日本ではひきこもりの高齢化が社会問題となっており、メディアでも大きく取り上げられるようになった。2017年5月に公表された佐賀県の調査では、ひきこもり層全体の7割以上が40歳以上であったそうで、年齢を重ねた彼らが社会との繋がりを持てない「社会的孤立者」として苦しんでいることが分かった。

 社会的孤立者として苦しい毎日を生き抜いているのはさまざまなきっかけによって社会のレールから外れてしまった「ひきこもり“未満”の人」も同じだ。そう教えてくれるのが『ルポ ひきこもり未満 レールから外れた人たち』(池上正樹/集英社)である。

 本書は、派遣業務の雇い止めや両親の多重債務、高学歴が仇となった就職活動、親の支配欲といったさまざまな理由を引き金に社会から隔絶され、レールを外れてしまった人々が抱いている孤独感やもどかしさにスポットを当てた1冊だ。

 ひきこもり未満となった人の中には、ひきこもりを乗り越え、社会と一度は繋がれたものの、再び“孤立無業”となり、社会的孤立者となってしまった人もいる。こうした人には「自己責任ではないのか」という辛辣な言葉が投げかけられることも少なくないが、果たして本当にそうなのだろうか? 本稿ではそんな当事者たちの苦悩と痛みを紹介していきたい。

■「ひきこもり未満」になる可能性は誰にでもある

 いつものように仕事をし、いつも通り家に帰る。そんな日々を長年過ごしていても、ある日突然、社会的孤立者になってしまう可能性は誰にでもある。例えば、2008年に金融危機による世界的不況を契機に大手メーカーなどで行われた「派遣切り」によって、社会的孤立者となってしまった人も多かったようだ。

 本書に登場する柴田さん(41歳・仮名)も派遣契約が終了してしまったことが理由で、社会的孤立者となったひとりである。柴田さんは中学生の頃、神経症を患い、高校を1年で退学。その後6年間ひきこもり、21歳頃からアルバイトや派遣で収入を得てきたが、37歳のときに派遣契約が終了し、孤立してしまった。

 学校や家庭で悩みを相談できる相手や適切なアドバイスをしてくれる存在に巡り合えなかったという柴田さんは、自身のことを“どこへ行っても当てはまらず、常に社会から弾かれてきた存在”だと話していた。

 アルバイトや派遣で収入を得ていても、いつ切られてしまうか分からないという不安感が常にあったため、柴田さんは支援機関にも積極的に救いの手を求めた。だが、現実は厳しく、お金がないと支援機関も相手にしてくれなかったと漏らす。また、あるひきこもり支援団体に自分の貯金を使って通ったものの、2回目にスタッフから「次の面談日はこちらから連絡します」と言われ、そのまま連絡は途絶えてしまったという。自立支援であれば医療費の自己負担が1割で済むと思い、病院にも行ってはみたが「うつ病でも障害でもないから、自立支援はうけられない」と言われ、打つ手はなくなってしまう…。

“生活保護”をうけてまで、他人の税金でお世話になってまで生き続けようとは思えない”

 著者の池上氏にそう語っていた柴田さんは、その後ある年のゴールデンウィークの前夜に首をつり、自らの命を絶った。

 柴田さんのように意図せず孤立してしまったという人は、表ざたにされていないだけで、実はたくさんいるように思える。彼のような社会的孤立者は“レールを外れた人間”ではなく、“社会から一方的にレールを外されてしまった人間”ではないだろうか。人はみな、それほど強くないからこそ、社会から転落したり、“なかったもの”のように扱われたりすると、生き続けていく意欲がなくなってしまうのだと思う。

 こうした現状を変えていくには、行政や周囲の人々が一丸となって、社会的孤立者を作らないようサポートしていく必要がある。本当に困っている人が安心してお金を受け取れたり、豊富な対策を選べたりする環境を整えていくことが、孤立を生み出さないことに繋がっていくはずだ。

■支援される側が安心して頼れるサポートを

 一方、社会的孤立者がいる家庭では、ひきこもっている人やひきこもり未満の人を同居家族が隠して責めたてるという「社会的監禁」が行われている事例もあるという。2018年4月に兵庫県三田市で発覚した、父親がプレバブの檻の中で長男を25年間監禁していた事件もその一例だ。

 社会的孤立者とその家族が安心できるよう、柴田さんは生前に「デリバリーひきこもり」という派遣型対話(対面)事業のアイディアを池上氏に打ち明けていた。このアイディアには柴田さんの実体験が活かされている。

 柴田さんは支援者から家庭訪問を受けたことがあったが、人生を委ねる相手を、支援される側が選べないことに疑問を感じた。そのため、支援者のプロフィールなどをリストアップし、お互いの相性を見極められるようなサービスがあれば効果的だと考えたのだという。

 私たちを取り巻く現状は日々移ろい変わっていくからこそ、新しいサポート法を積極的に取り入れていくことも社会的孤立やひきこもり問題を解決するために必要なように思う。今の日本には、形式的なサポートが多いからこそ、心が感じられ、孤独や痛みに寄り添えるような支援の方法が必要なのかもしれない。

 人間の世界には弱肉強食な一面がいまだにある。だが、人間は弱者がはいあがれないような社会にストップをかけることもできるはずだ。命をもって、ひきこもり未満の現状を教えてくれた柴田さんの冥福を祈りながら、私たちもできることを探していこう。

文=古川諭香