5人に1人がうつ状態! 中高年を襲う「昇進うつ」と不眠に効く“3日間睡眠”とは?【ストレス測定表付き】

暮らし

更新日:2018/10/24

『中高年に効く!メンタル防衛術』(夏目誠/文藝春秋)

 働き方改革によって職場の労働環境が見直される昨今。ビジネスマンが会社で馬車馬のように働かされる時代にようやく区切りがつきそうだ。その一方でなかなか改善に進まないのが、働く人々のメンタルの問題だ。

『中高年に効く!メンタル防衛術』(夏目誠/文藝春秋)の著者であり、精神科医として40年間様々な企業で“心の産業医”として活躍する夏目誠先生は、特に「中高年のメンタルが危ない」と警告する。多忙で責任が重く人事処遇などで強い負荷を抱える課長クラスの40~50代男性、役職ストレス・子育ての終わり・更年期障害というトリプルパンチに見舞われる40代後半~50代前半の女性は、気分が沈みがちで無気力が続く「うつ状態」から、うつ病などの精神疾患に陥る危険があるという。

 その理由を本書より少しだけのぞいてみたい。

advertisement

■客観的にストレスを測定する日本版ライフイベント表

「うつ状態」を引き起こす大きな要因がストレスだ。しかしストレスの厄介なところは、自分がどのようなストレスをどれだけ抱えているのか客観視しにくいこと。

 そこでストレスの測定法として世界的に高い評価を受けている「ライフイベント表」の日本版を本書よりご紹介したい。これは、家族の死や夫婦ゲンカ、失業や転職など、具体的な人生の出来事がどのくらいストレスになるのかをリストにまとめたものだ。

番号 「ライフイベント」の項目 体験した項目に〇をつける 点数
1 300万円以下の借金をした 51
2 300万円以上の借金をした 61
3 レクリエーションが減少した 37
4 レクリエーションが増加した 28
5 引っ越しをした 47
6 家族がふえる 47
7 家族の健康や行動の大きな変化 59
8 家族メンバーが変化した 41
9 課員が減る 42
10 課員が増える 32
11 会社が吸収合併される 59
12 会社の建て直しがあった 59
13 会社が倒産した 74
14 会社を変わる 64
15 技術革新の進歩がある 40
16 軽い法律違反を犯した 41
17 結婚をした 50
18 個人的な成功があった 38
19 顧客との人間関係 44
20 左遷された 60
21 妻(夫)が仕事を始める 38
22 妻(夫)が仕事を辞める 40
23 仕事に打ち込む 43
24 仕事のペースや活動が減少した 44
25 仕事のペース、活動が増加した 40
26 仕事上のミスがあった 61
27 子どもが新しい学校へ変わる 41
28 子どもが受験勉強中である 46
29 自己の習慣が変化した 38
30 自分が昇進・昇格をした 40
31 自分が病気や怪我をした 62
32 社会活動の大きな変化があった 42
33 収入が減少した 58
34 収入が増加した 25
35 住宅ローンがある 47
36 住宅環境の大きな変化 42
37 上司とのトラブルがあった 51
38 職場のOA化が進んでいる 42
39 職場関係者に仕事の予算がつかない 38
40 職場関係者に仕事の予算がつく 35
41 食習慣の大きな変化 37
42 親族の死があった 73
43 人事異動の対象になった 58
44 睡眠習慣の大きな変化があった 47
45 性的問題・障がいがあった 49
46 息子や娘が家を離れる 50
47 多忙による心身の過労 62
48 単身赴任をした 60
49 長期休暇が取れた 35
50 定年退職した 44
51 転職をした 61
52 同僚とのトラブルがあった 47
53 同僚との人間関係 53
54 同僚の昇進・昇格があった 40
55 妊娠をした 44
56 配偶者の死があった 83
57 配置転換された 54
58 抜てきに伴う配置転換があった 51
59 夫婦げんかをした 48
60 妻(夫)と別居をした 67
61 部下とのトラブルを生じた 43
62 法律的トラブルが生じた 52
63 友人の死があった 59
64 離婚をした 72
65 労働条件の大きな変化があった 55
○をつけた項目の合計点数

表1 日本版ライフイベント表

 このリストを見ると、「配偶者の死」が83、「会社の倒産」が74、「離婚」が72など、インパクトの強い体験ほどストレスが高くなることも分かる。

 夏目先生が1426人を対象に調査を行ったところ、ストレスの状態が「健常者」にあたる人々は平均して219点、「過剰ストレス者」(半健康状態)の人々は平均260点、「ストレス関連疾患者」の人々は平均309点という結果が出たという。この表で計算して、300点を超えた人は早急な対処が必要ということだ。

 ここで注目したいのは、「自分の昇進・昇格」というプラスの出来事でも40という数字がついていることだ。これは「昇進うつ」とも呼ばれる中高年のメンタルの問題につながる。

■5人に1人? 中高年に意外と多い「昇進うつ」

“心の産業医”として40年間様々な企業の社員たちを“診て”きた夏目先生は、昇進して管理職になった5人に1人が何らかの不調を抱えてしまうという。

 目の前の仕事をこなすだけでよかった平社員から昇進し、実務の責任が増すポジションになると、仕事のミスや職場の人間関係で受けるストレスが大きくなる。昇進するごとにその責務が大きくなり、中高年に多い課長クラスになると、結果を出さなければならない立場になる。さらに部下の責任を負い、多忙による心身の過労や左遷のリスクに悩まされる。かといって給料が以前より大幅に上がるわけでもない。

表2.ポスト別の職場ストレス点数

生活上の出来事 部長 課長 係長 職長 社員
会社が倒産した 75 77 76 83 73
会社を変わる 66 69 66 70 62
多忙による心身の過労があった 55 62 62 60 62
300万円以上の借金をした 46 58 53 67 63
仕事上のミスがあった 59 67 60 65 60
転職をした 67 68 66 65 58
単身赴任をした 56 62 61 68 59
左遷された 59 65 62 63 58
会社の建て直しがあった 64 67 64 70 57
会社が吸収合併される 64 67 65 67 56
収入が減少した 57 61 57 66 57
人事異動の対象になった 56 63 60 64 56
労働条件の大きな変化があった 55 57 56 60 54

 上の表を見ると、平社員から昇進した「職長」、それに次いで「課長」のストレス点数が他の役職より高いことがうかがえる。昇進した30代後半から積み重ねてきた多忙による“勤続疲労”と心労が、中高年になって「昇進うつ」を引き起こすのだ。

 夏目先生によると、もし「昇進うつ」が疑わしいときは思い切って仕事をリサイズする必要があるそうだ。これまで年功序列と終身雇用が当たり前だった日本企業では、「降格」は異例の措置。しかし過剰な負担によって社員のメンタル不調が生じている以上、その負担を軽減することが解決策の1つだ。給料が下がるかもしれないが、産業医や会社と納得いくまで話し合いをして仕事を続けていく道を探ろう。

■「うつ状態」になりかけたら「3連休×2回」回復法を!

 中高年の「昇進うつ」以外にも、上司からパワハラを受けたり、部下の関係がギクシャクしてしまったり、様々な原因でストレスを抱えて「うつ状態」に陥ることがある。もし自分が心に疲労をためこんで「うつ状態」になりかけたとき、どのような対策ができるだろうか。

 夏目先生は、毎日を健康に過ごす「心のエネルギー」を回復する最も効果的な方法を“睡眠”と説く。そこでオススメしているのが「3連休×2回」回復法だ。金曜日か月曜日のどちらかで有休をとり、土日と合わせて3日間とにかく眠るのだ。これを2週続けると劇的な効果があるという。

 特にストレスによる不眠の症状が出ている場合、「明日出社しなければ」という思いがストレスになるため前の晩よく眠れなくなる。「明日、会社に行かなくてもいい」という解放感は、不眠の解消に効果的だ。「働きながら治したい」という人もいるだろうが、夏目先生は「あまりうまくいかない」と断言しているので、思い切って有休をとって休もう。

 メンタルの問題は、目に見える身体のトラブルと違って軽視されがちだ。身体は無理をすると物理的に動けなくなるが、メンタルは少々無理をしても動けてしまうので、余計に後回しにされがち。しかし一度メンタルに不調が出ると、身体を治すより時間がかかることがある。

「最近ムリしているな」「周りから“大変ですね”ってよく言われる」など、思い当たる節がある人は不調になる前に早めに上司や産業医に相談しよう。

文=いのうえゆきひろ