本当においしいものはトラックドライバーが知っている! 「食べる東北」最終章

マンガ

更新日:2018/10/30

『流浪のグルメ 東北めし Ⅲ』(土山しげる/双葉社)

 旅先でおいしいものに出会うのは、旅の楽しみのひとつ。おいしいものの情報収集のやり方はさまざまだ。ガイドブックを見るもよし、グルメサイトをチェックするもよし、そこに行ったことがある知り合いから聞くもよし。旅先でのタクシードライバーも、たくさんのおすすめ情報を持っている。

『流浪のグルメ 東北めし Ⅲ』(土山しげる/双葉社)は、そんな“おいしいもの情報源”の中でも、全国各地のローカル食を知り尽くしたトラックドライバーが、東北で出会ったおいしいものを紹介してくれる、「食べる東北」とでも言うべきグルメ漫画だ。

■地方の「名物料理」は本当にうまいのか?

 主人公のハンター錠二(本名:獅子戸錠二)は、全国各地をまたにかけるトラックドライバー。おいしいローカル食に目がなく、仕事先もローカル食が豊富なところを優先して選んでいるほどだ。自分で仕事先を選べるということは、きっと仕事もデキる男なのだろう。

advertisement

 今回、そんな錠二が向かったのは青森県。八戸名物の鯖寿司を求めて入ったスーパーで、ひょんな事から、取引先へお土産を届けようと急いでいた地元のサラリーマンのピンチを救う。サラリーマンはお礼として錠二に、八戸名物の“せんべい汁”をご馳走したいと申し出るが、ローカル食に目がないはずの錠二が、その申し出を断ってしまう。というのも錠二は以前、別の町で八戸「風」の不味いせんべい汁を食べてしまい、それがトラウマとなっていたのだ。

 それを聞いたサラリーマンは、「それは八戸の人間にとっても悔しい話。本物のせんべい汁を食べてほしい!」と錠二を説得し、リベンジを果たそうとするのだが…。八戸の誇り、本物のせんべい汁とはどういうものなのか、そしてそれを食べた錠二の反応は? ぜひ読者も本書を通じて味わっていただきたい。

■ローカル食に思いを馳せ、味わい続けよう

 本書ではせんべい汁の他にも、桜鍋、けの汁、ホタテ貝焼きなど、青森のローカル食がふんだんに紹介されている。登場するのは必ずしもご当地特産料理だけではない。どこにでもあるような食堂の、中華そばやカレーライスといった、ありふれたメニューがおいしい!といううれしい出会いもしっかりと描かれている。登場する料理はどれもリアルに描き込まれており、それを食べるキャラクターの恍惚の表情や、豪快な食べっぷりも見どころだ。読むとすぐにでも青森に行きたくなるだろう。

 本書を読んでいると、「もし錠二が、自分が住んでいる街や自分の出身地に来たら、どんな料理を紹介するのだろう?」と、自分なりの“おすすめローカル食リスト”を思い浮かべる人もいるかもしれない。ぜひ次作ではそれを描いてほしいところだが、作者の土山しげる氏は、本書を最後に闘病生活に入り、2018年5月24日に逝去された。ご冥福を祈るとともに、土山氏が遺してくれた数々の作品に敬意を表し、これからもローカル食を味わい続けていきたいと思う。

文=水野さちえ