「深夜だけど食べちゃいなよ?」 非情な悪魔が耳元でささやくグルメ漫画

マンガ

更新日:2018/11/5

『今宵の悪魔定食』(橋本智広/芳文社)

「ダイエット」、気になりますよね。
「食べるなら、できるだけヘルシーなものを」、わかります。
「寝る前には食べるのを控えた方が、体にいいよ」、おっしゃる通りです。

「でも私は今、ラーメン食べたいの、夜中だけど!」…なんてことはありませんか? ちなみに私はしょっちゅうあります。年中、脳内で天使と悪魔がささやき合って大変です。
(天使)「夜中にこんなものを食べちゃダメっ!」
(悪魔)「お腹すいてるんでしょ? 食べちゃいなよ~」
本稿で紹介するのは、そんな悪魔のささやきがレシピと共にくり出される背徳のグルメ漫画、『今宵の悪魔定食』(橋本智広/芳文社)です。

■勝負の“後”の勝負メシ

 漫画家が、原稿を描きながら対決しているものといえば、〆切り。人は何かと対決する前に、とっておきのものを“勝負メシ”として食べ戦いに臨みますが、漫画家の場合は、勝負メシを戦いの前に食べると負けてしまいます。なぜならば、食べると当然のように眠くなってしまうから。従って、漫画家がとっておきのものを食べるのは勝負の“後”なのです。

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 本書内で紹介されている勝負メシは、「豚肉ハンバーグ600グラム」。悪魔的なビッグサイズのハンバーグは、作り方や材料もまた悪魔的です。玉ねぎをたっぷりのバターで炒め、ハンバーグをソースで煮込む時にもまたバターを投入します。見た目もカロリー的にも腹いっぱいになりそうなこのハンバーグは、まさに勝負メシ。戦いの後に、心おきなく腹におさめ、つかの間の休息をとり、そして次の戦いへ向かっていくのです。

■悪魔のささやきに、あなたはなびくのか…?

 本書では、「サバ納豆キムチ丼」「油そば」「極盛り生クリームフレンチトースト」などの、さまざまな悪魔メニューが紹介されています。某有名漫画家のアシスタントとしてキャリアをスタートさせた作者が描く料理の絵は、どれも緻密で美しく、シンプルタッチでデフォルメして描かれる人物の絵とは対照的で、お互いの良さを引き立て合っています。また、まぐろに納豆、めかぶ、オクラなどを使った「納豆とネバネバの仲間たち丼」は、作りやすさもさることながら、ネーミングセンスも光ります。

 そして、著者と奥さんとのコミカルな会話に乗せて紹介される料理の説明はどれもとてもわかりやすく、読むだけで悪魔メニューの作り方はスルスルと頭の中に入ってきそうです…。

 ですが、ギャグ漫画風の表紙や内容の親しみやすさに惑わされてはいけません。なぜならば、本書は“悪魔のささやき”グルメ漫画だからです。読後にはパパっと料理に取りかかり、そして心ゆくまで味わいたくなる、そんな1冊です――たとえそれが深夜であっても。

文=水野さちえ