羽生結弦選手のコーチが明かした、五輪の裏側――「チーム・ブライアン」が目指すものとは?

スポーツ・科学

2018/11/10

『チーム・ブライアン 新たな旅』(ブライアン・オーサー:著、野口美惠:構成・翻訳/講談社)

『チーム・ブライアン 新たな旅』(ブライアン・オーサー:著、野口美惠:構成・翻訳/講談社)は、カナダ・トロントの会員制スポーツクラブ「クリケット・クラブ」で、男子フィギュアスケートの羽生結弦選手のコーチをしているブライアン・オーサー氏が、羽生選手やハビエル・フェルナンデス選手の練習風景、日常生活、試合時のことなどを、独自の視点から綴った大人気シリーズ第3弾だ。

 本書では「平昌五輪で羽生選手が連覇するに至るまでの、チーム・ブライアンの知られざる葛藤と努力、苦悩、成長、友情、そして愛のストーリー」が書かれている。

 羽生選手が平昌五輪で連覇を達成し、前回のソチ五輪に続いて金メダルを獲得したことは記憶に新しい。それと同時に、ファンにとってはツライことも思い出すのではないだろうか。

 オリンピック間近、羽生選手は練習中に怪我をしてしまい、それ以降、試合に出られなくなったのだ。「オリンピックには出られないかもしれない」とか、様々なウワサが流れた。活躍を楽しみにしていたファンにとって、実にハラハラして、気が気でない時間だったと思う。

 結果として、羽生選手はオリンピックに出場し金メダルを取った。もちろん、それはとても喜ばしいことなのだが、怪我は治りきっていたのか。練習はいつから再開し、どのようにコンディションを整えていたのか等々、当時「知りたいこと」はいっぱいあった。

 本書では、その「気になっていたこと」が、コーチの目線で余すことなく書かれている。羽生選手が怪我をした後、オリンピックまでどのように過ごしていたのか。「あれは本当のミラクルだった」とコーチ自身も語る「裏側」だ。それだけでも読むべき価値が十分にある一冊だと思う。

 だがもちろん、本書の「面白さ」は、羽生選手に関わることだけではない。

「チーム・ブライアン」が、どのような考え方でスケートと向き合い、選手を育てているのか。また、羽生選手やフェルナンデス選手といった、一流のアスリートを同時にコーチしているオーサーコーチの「苦労や喜び」なども分かる。彼の視点から語られるフィギュアスケートは、現役の選手が語る内容とは、また違う「奥深さ」があった。

「クリケット・クラブ」は単なる練習場ではなく、誰もが助け合い、素晴らしいことがあれば皆で一緒にお祝いする「ひとつの村のようなコミュニティ」を目指しているという。

 そのクラブの門下生として、共に練習に励んでいる羽生選手とフェルナンデス選手。だが本来、世界のトップを争うライバル同士が、同じ指導者のもとで学ぶことは、難しい一面もあるはずだ。しかしオーサーコーチは「(この状況は)選手の精神状態にとってとても良いのではないか」と語っている。

「(二人は)お互いに敬意を払い、良いところだけを吸収し合っています。これがどれだけ『見えないプレッシャー』を軽減するのに最適の手法か、計りしれません」

「見えないプレッシャー」とは、例えば「ライバルは絶好のコンディションで試合に現れるのではないか」「もっとすごい練習をして、自分より上手になっているかもしれない」といった、相手が見えないがために、不安を抱えてしまうことだ。

 二人の性格もあったと思うが、羽生選手とフェルナンデス選手は、同じ師を仰ぐ門下生だったからこそ、疑心暗鬼のような「不安」を抱えることなく、お互い練習に集中できたのではないだろうか。

 今シーズンからは、平昌五輪の銀メダリストであるロシアのエフゲニア・メドベージェワ選手やアメリカのジェイソン・ブラウン選手なども加わり、ますます注目を浴びているチーム・ブライアン。「切磋琢磨」という表現が一番似合う、選手にとって最高の練習場所の様子を、本書は教えてくれる。

文=雨野裾