1冊の本が、本屋の運命を変えた! 2017年に他界した“くすみ書房”店主が残したもの

文芸・カルチャー

2018/11/23

『奇跡の本屋をつくりたい  くすみ書房のオヤジが残したもの』(久住邦晴/ミシマ社)は、かつて札幌にあったくすみ書店の店主による奮闘記だ。

 2000年代初頭。くすみ書房は閉店の危機にあった。店内はいつもガラガラ。欠品により棚はガタガタ。頑張れば頑張るほど増えていく赤字。もう閉店するしかない。そう腹を括るところから本書はスタートする。

 そんなくすみ書房を救ったのが、ある1冊の本だった。「これからは非常識といわれていたことにこそ成功のヒントがある」、そう書かれたビジネス書のアドバイスに従い、著者は次々とユニークな催しを企画しはじめる。

 新潮文庫で売れていない700点と、良書が多いにもかかわらずなぜか売れないちくま文庫800点をずらりと並べた「なぜだ!? 売れない文庫フェア」。中学生に読んで欲しい本500冊を集めた「本屋のオヤジのおせっかい 中学生はこれを読め!」。毎日午後5時から店内で朗読会を開催。古書を並べた「ソクラテスのカフェ」の設置。気がつけば、くすみ書房は名の知れる本屋となっていた。

 本書で解説を担当する東京工業大学教授・中島岳志さんは、初めてくすみ書房に訪れた際、「こだわりがあるのに大衆的」な店内の雰囲気に惚れ込み「この町に住もう」と決意。その足でマンションの契約をしたというエピソードからも店の魅力が伝わってくる。

しかし本書はそんな成功秘話だけを収めたエッセイではない。書店を運営していく厳しさ、悩みや葛藤が率直な言葉で語られている。どちらかといえば苦悩の割合の方が多い。

 著者は本書を通じて何を伝えたかったのか。それは1冊の本には人の人生を変える力があるということではないだろうか。本書には、下記のような言葉が幾度も登場する。

本には奇跡を起こす力があります。そのためにはピンチになっても逃げたりあきらめないで、そのピンチに向き合い、どうすれば勝てるかを考え、そして行動することです。その行動のひとつに読書があるわけです。「本にはすべての答えがあります」

 くすみ書房は惜しまれつつも2015年に閉店するが、著者は諦めずに次の夢を描きはじめる。本書の後半には、新しく立ち上げようとしていた本屋の具体的な構想や経営方針が細かく記載されている。残念ながら著者は2017年8月に他界。本書を片手に、夢の続きを描くのはあなたかもしれない。

文=竹田郁