ティラミスはなぜ流行った? 大ブームになった3つの理由

食・料理

2018/12/6

『ファッションフード、あります。』(畑中三応子/筑摩書房)

 電車に乗れば、いろいろなファッションの人に出会う。ファッション雑誌に登場するような流行のファッションに身を包んだ人もいれば、近頃あまり見かけなくなったバブル時代のファッションの人に出くわすこともある。ファッションは、流行を取り入れてもいいし、流行にとらわれずに自分のスタイルを貫いてもいいし、自由に楽しめるものだろう。

 流行は、何もファッションや服飾だけのものではない。本稿で紹介する『ファッションフード、あります。』(畑中三応子/筑摩書房)は、長年、編集者やライターとして食の世界に携わってきた著者が、流行りすたりのある食べ物を「ファッションフード」と命名し、その歴史や背景を語る1冊だ。

■爆発的に流行したティラミスは、なぜ定番化できたのか?

 1990年代初頭、バブル景気のピーク時にあわせてブームとなったイタリア料理、通称「イタめし」。そこで最大のヒットとなったのが「ティラミス」だ。もともと高級イタリア料理店で普通に作られていたデザートだが、雑誌『Hanako』の特集などを通じて流行が加速した。ティラミスの流行は、イタリア料理店だけでなく、洋菓子店や喫茶店にも波及し、ファミリーレストランやコンビニスイーツにも広がった。そして現在でもいたるところで定番スイーツの座にある。

 ティラミスが、一時的なファッションフードに終わらず、バブル後も定番化した理由として著者は次のような要因を挙げる。

・作り方の単純さ
・名前の覚えやすさ
・高価で日持ちしない主材料(マスカルポーネチーズ)の代替品(マスカポーネ)が普及した

 これは食品業界が、タイムリーに需要と供給に対応することで、定番化に成功した事例のひとつだ。このティラミスブーム以降、企業が意図的に仕掛けたファッションフードが目立つようになった。

■「インスタ映え」する料理写真のヒントは、もっと古くからあった!

 本書では、大阪万博が開催された1970年前後をファッションフード元年と位置づけ、それ以降のファッションフードの変遷が、現在の「インスタ映え」や「発酵食品ブーム」にいたるまで、詳細かつテンポよく説かれている。どの項も、ただ事例が並んでいるだけでなく、随所に冷静な分析や、ときにはピリリと効いた皮肉や、あるいは食に対する温かい愛情が見え隠れする。

「インスタ映え」を解説する項では、インターネットやSNSの持つ情報拡散力やスピード、さらには誰でも簡単に参加できるスタイルが、ファッションフード発信の敷居を低くしたと説く。一方で、情報が数多く溢れている現在では、「知りたい情報にしかアクセスしない」というインターネットならではのメディア特性にも触れながら、流行が局地化・先鋭化しているとも指摘しており、興味深い。流行の形や規模そのものが変化しているのだ。

 また、食の流行をずっと見守ってきた著者は、インスタに投稿される写真を通じて、「料理写真の変遷」をそこに見るという。「インスタ映え」すると評される料理写真には、料理写真のこれまでのトレンドがしっかりと継承されているのだそうだ。本書を読むことは、インスタ映えする写真テクニックを学ぶ参考にもなるだろう。

 ファッションフードの変遷を俯瞰すると、変わるところと変わらないところがある。これは長年、食に携わり、夢中になり、楽しんできた著者にしか書けない結論だろう。巻末にリストアップされた参考文献や、ファッションフード年表からも、学べることは多そうだ。食の変遷を知ることで、私たちが、これからの食生活を考える際のヒントが得られるのは間違いないだろう。

文=水野さちえ