「AIBO」は極楽へ行ける? 日本のペット葬式事情とは?

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公開日:2018/12/25

『ペットと葬式 日本人の供養心をさぐる(朝日新書)』(鵜飼秀徳/朝日新聞出版)

 家族の一員であるペットが亡くなると悲しい。そして、悲しみの中、“その後”について考えなければならない。その後とは、遺体をどうするか、である。

『ペットと葬式 日本人の供養心をさぐる(朝日新書)』(鵜飼秀徳/朝日新聞出版)によると、1999年前後にペットが“家族”に昇格して以来、ペット葬が増えてきた。

 ペット葬は、核家族化・少子高齢化に伴う、過剰なペット供養の一幕なのだろうか。そもそも、ペットは死後、どこへ行くのだろうか。

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 まず、ペットの死後から見ていきたい。宗教は基本的に「死からの救済」を目的としているが、それは「人間の死」のことであり、「ペットの死」は想定されていない。ペットの死後が気になる飼い主が増えたことで、宗教界では今、議論が沸騰している。

 かたや、飼い主が考える最も理想的な姿で往生すると言い、かたや、三心(極楽に往生するために必要な至誠心・深心・回向発願心)を持ったり念仏を称えたりできないので往生できない、と言う。著者は前者の考え方だ。確かに念仏は唱えられないが、それを言うなら世の中には念仏に触れない人生を送っている人や障がいなどで念仏を唱えられない人、水子や夭逝した子どもはどうなるのか。このような人々をもすくうのが阿弥陀仏であると考えるからだ。

 六道輪廻で畜生道は三悪道の一つとされるが、ペットの場合は前世での行いが良かったのかペットとして生まれたため人間に尽くすことができたので、死後はさらに上のステージへと転生できる可能性が高そうだ、と付け足している。

 次に、ペット葬について。実は日本においてペット葬の歴史は古い。4~5世紀頃の応神天皇が猟犬を埋葬したという記録が最古のペット墓とされる。昭和に入ると、東京・渋谷駅舎の一部を使って執り行われた忠犬ハチ公の葬式が知られている。庶民におけるペット葬の一般化はバブル期以降とはいえ、ペット葬の例は古くからいくらでもある。

 また、日々消費される“食べ物としての命”について消費者は弔いの意識を持たないが、生業としている人たちは命の慰霊と感謝、生業の成功などの目的で、古くから生き物の供養を行ってきた。水産資源大国である日本では、全国にマグロの位牌、うなぎ観音、クジラ供養祭などの供養を見ることができる。魚だけではない。昆虫の供養塔「虫塚」の歴史も古く、国内には少なくとも200以上の虫塚が存在するという見方がある。

 殺虫剤メーカーも害虫の供養をする。アース製薬、大日本除虫菊、フマキラーといった大手家庭用殺虫剤メーカーや、業界団体である日本家庭用殺虫剤工業会は、毎年「虫供養」を行っている。例えば、アース製薬は毎年12月中旬に兵庫県赤穂市の妙道寺で虫供養を実施しており、2017年には研究開発部員の正社員ほぼ全員にあたる約80名が参列し、ハエ、カ、ゴキブリ、マダニなど7種の「遺影」を並べ、1人ずつ焼香し、手を合わせた。参列は強制ではないが、償いの気持ちと研究成功への祈りからほとんどの正社員が参列するのだという。

 ところで、これまで述べてきた「生物」は「有情」の存在である。この「有情」に対して「無情」という考え方がある。山、川、金属、そして植物は仏教において「無情」のカテゴリーに入る。しかし、古来、日本では無情にも霊魂や意識が宿るとされてきた。実際、全国に植物の供養塚が見られる。考えてみれば、人形も無生物だが、人形供養は知られるとおり執り行われてきた。

 さて、ペットに話を戻す。寿命がないはずのロボット犬だが、メーカーの業績悪化により製造・販売が中止され、やがて修理対応も打ち切られる事態となった。ソニーのAIBOである。治療する病院がなくなってしまったAIBOにおいて、死という概念が誕生したのである。AIBOは、飼い主にとっては間違いなく家族の一員。弔ってやりたい気持ちがわくのは当然だ。

 2015年にAIBOの葬式が初めて執り行われ、2017年の5回目となる葬式では100匹を超えるAIBOに引導が渡された。メカそのものの霊魂を慰めるのか、飼い主の気持ちや念を弔うのか。それは個々の事情に依るだろうが、日本人が長い歴史の中で培ってきた供養心と美風は世界でも珍しく、日本人が持つ“見えないものに気づく能力”に学ぶ必要がある、と考える海外の人は一定数いるという。

文=ルートつつみ