ベルリンの壁崩壊、9.11…“平成”の事件は私たちの生活をどう変えた?

社会

更新日:2019/1/9

『援助交際 女子中高生の危険な放課後』(黒沼克史/文藝春秋)

 元号「平成」(1989年1月8日~)が始まったその1カ月後の2月中旬、筆者は仕事の関係で、当時の西ドイツ(現ドイツ)のベルリンに滞在していた。東西ドイツを分断していた「ベルリンの壁」の西側部分には、現地の若者や観光客などにより色とりどりの落書きが施され、ハンマーなどで自由に壊しては、壁のかけらを記念品やお土産にするのがトレンドになっていた。

 そして89年11月、ベルリンの壁は跡形もなく壊され、1990年10月、分断されていた東西ドイツは、正式に現在のドイツへと統一された。さらに翌91年にはソ連が崩壊。平成の始まりはまさに、東西冷戦の終焉と調和の時代の始まりを予感させた。

■「激動の時代」となった平成を振り返る

 とまあ、平成の始まりはこんな風にドラマチックなものだった。がしかし、人生同様に、順風満帆とばかりにはいかないのが人の世、時代なのだろう。

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『10代に語る平成史』(岩波書店)の著者で、「報道ステーション」(テレビ朝日)コメンテーターの後藤謙次氏は、平成を振り返って「激動の時代」と評している。

 ではどう激動だったのか? 本書は、元共同通信の政治部記者だった著者が、取材にあたった現場感などをふんだんに盛り込みながら、平成時代の中でも「政治・経済・外交(対米国、ロシア、中国、韓国、北朝鮮)・沖縄問題・自然災害」などの分野で起こった、現在そして未来にもつながる重要な潮流、問題点を解説する1冊だ。

 タイトルに「10代に語る」とあるように、白鴎大学特任教授でもある著者が、大学の講義で使った内容を補強して本書に仕上げているため、各分野の重要ポイントが平易な言葉でわかりやすく指摘されており、大人の振り返り用としても十分に活用できる。

 本稿ではまず本書の「9.11が変えた日本外交」というテーマを紹介しよう。

 2001(平成13)年9月11日、米国で起きた同時多発テロ。著者は、テロの内容そのものよりも、このテロを契機にその後の日本外交、自衛隊問題にどれほど大きな影響を与えたかに焦点を当てている。

 9.11同時多発テロは、米国の同盟国である日本にとって、黙って見過ごせる対岸の火事ではなかった。著者は、重要なキーワードとして、2つの英文フレーズをあげている。それが、「Show the flag(日の丸を見せてほしい)」「Boots on the ground(陸上部隊を送れ)」だ。

■9.11同時多発テロから「安全保障法制」までの道のり

 同時テロから約2週間後、当時の小泉首相は、米国からの「Show the flag」というメッセージに従い、対テロ戦争を展開する米国の後方支援部隊としての自衛隊派遣を決めた。また、その後のイラク戦争では、米国からの「Boots on the ground」という要請を実現させるべく、自衛隊の派遣を決めた。著者はこう記している。

これをきっかけに戦後の日本が一貫して封印してきた、戦闘状態が続く海外への自衛隊派遣の道を歩み始めたのです。

 著者はこの章において、対テロ戦争という名のもと、日本がいかにその後の2015年に安倍政権が制定させた「安全保障法制」(自衛隊が集団的自衛権を行使できることなどを認めた法制)までの道のりを歩んだかを解説している。

 そして将来に向けて、「この国のかたちを(今後)どう描くのか、私たち日本人全員が直面する問題です」と著者は結んでいる。

 本書はこの他にも、失われた20年といわれる経済問題、沖縄問題、北方領土問題や隣国との未解決問題、東日本大震災や原発事故などの諸問題など、いつ解決・収束するとも知れない難題が山積みである現状を教えてくれる。

「様々な出来事を通して振り返り、未来にどうつなげていくのかを考えていきたい」というのが本書の狙いだと記す著者。ぜひ本書で、根深いさまざまな問題の歴史的な流れを追って、個々の問題認識を改めてみてはいかがだろうか。

 本書で扱ってはいないテーマだが、平成と言えば「IT革命の勃興」は間違いなく私たちに明るい兆しを感じさせてくれるテーマのひとつだろう。

 ネットやSNSは世界の距離をぐっと縮め、今後、世界との対話の在り方にも大きな変化をもたらすことが期待されている。問題を解決させるのに、対話は重要なツールだ。新元号の時代こそ、対話と調和が実現する世になってほしいと願うばかりだ。

文=町田光