「今月のプラチナ本」は、長浦京『マーダーズ』

今月のプラチナ本

公開日:2019/3/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『マーダーズ』

●あらすじ●

今の日本では、法や医学の目をかいくぐり、多くの犯罪者たちが逮捕されないまま町に潜んでいる可能性がある──。商社マンの阿久津清春と警視庁の現職刑事の則本敦子も、過去に凶悪な殺人を犯しながらも今まで誰にも知られることなく、ごく普通の生活を送ってきた。しかし、二人の前に過去の事件の証拠を握る柚木玲美という女性が現れ、日常が少しずつ狂い始めていく。

ながうら・きょう●1967年埼玉県生まれ。法政大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て放送作家に。その後闘病生活を送り、退院後に初めて書き上げた『赤刃』で第6回小説現代長編新人賞を受賞。17年、デビュー2作目となる『リボルバー・リリー』で第19回大藪春彦賞を受賞。 

『マーダーズ』書影

長浦 京
講談社 1800円(税別)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

異能者たちが互いを狙い、憎み、愛する物語

「法では裁き得ない者たちへの断罪が始まる」という帯を見て、正義のために悪人を殺すヒーローの話かと思った。ところが本作は、敵役も主人公たちも「法では裁き得ない者」ばかりで、「正義」などという簡単な理由では動かない。「君と私たちは同じ狩り場で出会ってしまった肉食獣みたいなものだよ」「どちらかが死んで消え去るまで、徹底的に潰し合うしかない」─肉食は理念ではなく本能。殺人という本能を持つ異能者たちが、互いを狙い、憎み、愛する緊張感がたまらない。

関口靖彦 本誌編集長。現実には絶対に出くわしたくない人物ばかり出てくるのに、読後感は「かっこいい……!」のひとこと。鬼神たちの饗宴に憧れる。

 

一気読みがおすすめ!

読む手を止められないというより、この疾走感を逃したくないから一気読みしてしまった、というほうが正確かもしれない。犯罪者と警察官、追う者と追われる者、過去の事件と現在の事件、あらゆるものが行きつ戻りつひとところに集まっていく流れが読んでいて心地よかった。そして主要人物の阿久津清春が魅力的。物事を俯瞰し冷静な顔を持っているのに、中身はどろどろで人間くさい。破滅してほしくないけど破滅の道を突き進むかもしれない。そんなあやうさの先をまた読みたい。

鎌野静華 歯医者さんに通ったおかげで口内環境がひと段落ついたと思ったら、爪がボロボロになっていることに気付く。あ〜…今度はネイルサロンか……。

 

探偵役にそれを持ってくるとは!

帯文によれば、この10年で捕まっていない殺人犯は約200人。本作はそんな一握りの人間が次々と登場するミステリー小説だ。しかし彼らは、非常にグレーな存在として描かれる。法的には裁かれるべき人間でも、殺人が選択肢となり得る日々を彼らが送っていたとしたら? シビアな過去を抱えながら生きるマーダーズは、研ぎ澄まされた強さと賢さを持ち合わせている。そんな彼らを主人公が探偵役として操るという設定……否応なく終盤の怒涛のアクション展開が盛り上がるのである。

川戸崇央 原田まりるさん本誌連載小説『ぴぷる』が刊行。4月13日には声優の梶裕貴さん、八代拓さん、アニメーターの田中将賀さんをお招きしてイベント!

 

善悪もない、エゴむきだしの物語

主要登場人物、皆人殺し。そしてその殺人犯が探偵役になる。気を抜けば〝殺られる〟かもしれない、そんな相手と手を組まされる阿久津と敦子。自分を守るための距離感と常に〝策〟をとる、冷静かつ思考フル回転の会話がウィットに富んでいて刺激的だ。後半のアクションはまるで映画を観ているかのような、見事なエンタメ&疾走感。しかし商社マンの阿久津がめちゃくちゃ強い。復讐とは執着とは、自分が生きる理由とは。善人も悪人もないエゴむきだしの世界のラストに余韻が残る。

村井有紀子 塩田武士さん長編新作『デルタの羊』(P59)、連載スタート。物語の舞台はアニメ業界。イラストは『SHIROBAKO』のぽんかん⑧さん!

 

感情移入、なんか要らない

法の目をかいくぐり、一般社会に潜む殺人犯。彼はある殺人犯を見つけ出して殺めようとする。だがその裏には、また別の殺人犯による思惑が隠れていて……。主要な登場人物のほぼ全てが凶悪犯罪者(しかも警察の捜査を欺くほど狡猾)なので、普通の読者は、彼らに一切、感情移入が出来ないだろう。しかし、なんだろう、この引きつけられ方は。展開を追う手が止まらない。謎が、伏線が、アクションが、先の読めないドラマが、その面白さだけに突き動かされる。これは凄い、本物だ!

高岡遼 マンガ版『君は月夜に光り輝く』、小説『イミテーションと極彩色のグレー』発売中! 両作品の魅力はP182からの特集にてたっぷりご紹介!

 

善人がいない物語もいいもんだ

「この街には複数の殺人者がいる」と確かに帯にあった。でもまさか、主人公サイドが殺人者とは思わなんだ。倫理的、というか法的にアウトな過去をもつ人びとが、それぞれ異なる正義と執念を胸に、とことんお互いを利用し合う……。いわゆる善人はひとりもいない曲者だらけの物語ながら、ふしぎと読後感は爽快で、共感とか善意とか優しさとか正しさとかではない〝何か〟を求める、自分の仄暗い部分に気づかされたり。あらゆる意味でスリリングなクライムノベルを、冬の終わりにぜひ。

西條弓子 ネットで爆裂人気の西沢5㍉氏デビュー作『私の初めて、キミにあげます。』が発売。全ページがうらやまけしからん展開。詳細は198頁‼

 

気持ち悪いのに爽快! クライムサスペンス

約400Pの本書。体感値としては倍以上、まるで長寿の海外ミステリードラマ1シーズン分。テンポの良いアクションシーンは快感なのに、言いようのない気持ち悪さがつきまとう。登場人物それぞれのエゴと狂気が火花を散らし、自らの目指す幸せに向かう様子は爽快な一方、憐憫と不快感が押しよせる。間違った正義から生まれる歪な幸せの下にあるのは、正しい正義に守ってもらえなかった悲しみ。きっかけ一つで自分もそちら側に転ぶかも……と気づいた瞬間、最高にゾッとしました。

有田奈央 今月のノベルダ・ヴィンチは『続 横道世之介』! 生きることに希望が持てて、出会えてよかった本だと思える読後感は最高。疲れた時にオススメ。

 

正義ってなんだっけ、強さってなんだっけ?

「─こいつのことが怖い。正直そう思った。でも、興味も抱いている。本当にこの感覚は何だろう?」作中のこの言葉を、そっくりそのままこの作品に返したい! 登場人物は犯罪者だらけだが、それぞれが絶対に譲れないもののために全てを懸けて闘う姿はあまりにも潔く、なぜか惹かれてしまう。けれど、自分の信じるものだけが美しいと言い切れてしまうのは、強さなのか、弱さなのか。本作で描かれる緊張感たっぷりの命懸けのやり取りの中に、ひとつの答えを見た気がします。

井口和香 友人に勧められ、海外のドラァグクイーンにドハマり。美しさとユーモアと強さを兼ね備えたクイーンの方々に、毎日勇気と元気をもらっています!

 

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