部下が上司を「マネジメント」!? ドラッカーの上司マネジメント法で上司を効果的に働かせよう

ビジネス

2019/3/15

『徹底的にかみくだいたドラッカーの「マネジメント」「トップマネジメント」』(二瓶正之/主婦の友社)

 約10年前、敏腕マネージャーと野球部の仲間たちが甲子園を目指して奮闘する青春小説『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』が出版されベストセラーになった。日本中がピーター・ドラッカーの名前を知り、「どうやらこの経営理論はすごいらしいぞ」と興味を持った。

 ところがいざドラッカーの著作物を読むと、「難しくてよくわからない」と挫折する人が続出。事実、ドラッカー入門書籍をあちこちで目にするが、内容が難解だったり、原著のエッセンスが半減していたり、彼の経営哲学をわかりやすく真に理解できる書籍は少ないように感じる。

 そこで刊行されたのが『徹底的にかみくだいたドラッカーの「マネジメント」「トップマネジメント」』(二瓶正之/主婦の友社)だ。ドラッカーを研究すること47年に及ぶ著者・二瓶正之さんが、原書を丁寧に日本語に訳し、ドラッカーが本当に言いたいことを忠実に記している。

 会社や組織を経営する上で絶対に欠かせないドラッカーのマネジメント論。私は本書を読み進め、ドラッカーの掲げた経営思想を理解すると、世の中の企業に対する見方が変わるのを感じた。

■「マネジメント」の意味を理解しないと原著が難攻不落になる

 ドラッカーの経営思想をご紹介する前に、まず最も重要なポイントをご説明したい。

 ドラッカーの原著でつまずく部分がいくつかある。その中で最も重要なポイントは、「マネジメント」の意味を理解できるかどうかだ。マネジメントは、動詞として用いられる場合と、名詞として用いられる場合がある。

 動詞として活用される場合は「機能・働き」を意味し、「企業をマネジメントする」「事業部門をマネジメントする」と表現される。

 一方で名詞の場合は「担い手」を意味し、「機能・働きの担い手」と、「理論の体系」の、2つの表現がある。前者ならば「経営者」「中間管理職」など、地位を表す。後者ならば「マネジメントについての理解」「マネジメントの知識」など、理論の体系を表す。

 そしてマネジメントの最も本質的で中心的な意味は、動詞の「機能・働き」であり、「人の強みを生かして組織の成果につなげること」だ。

 この部分を理解しないと、途端にドラッカーの原著が難攻不落の学問に変わり、音を上げてしまう。受験勉強に明け暮れた学生時代を思い出して、ここは定期的に復習して理解を深めたいところだ。

■企業とはよりよき社会の実現のために「貢献」する存在

 本書の本論に入りたい。ドラッカーはユダヤ人として生まれ、すんでのところでナチスの拘束を逃れ、移住先のアメリカからナチスによる非道の大量虐殺と全体主義によるヨーロッパの混乱を注視し続けた。その内心は察するに余りある。

 そんな彼が抱いた思想が「自由で機能する社会の実現」であり、「よりよき社会の実現」だった。多くの経営学者が「はじめに企業ありき」でマネジメント論を展開する一方、ドラッカーは「社会があるから企業がある」と考え、企業はよりよき社会の実現のために「貢献」する存在と説いたのだ。多くの経営者が最も重んじる利益追求は、よりよき社会を実現する企業の存続の手段・条件でしかない。

 そのため組織やそこで働く個人には、社会をよりよくするための「ミッション」があり、「貢献」を通じて「成長」を続けなければならない。そして貢献と成長を実現するために「自分自身の強み」を知らなければならない。これがドラッカーのマネジメント論の根源だ。

 この経営思想を知れば、今日までに大きく成長した企業と傾いた企業、両者の違いが分かる気がする。大きく成長した企業は、よりよい社会の実現を目指して、組織や個人のミッションを理解した。社会貢献を続けることで顧客に「この会社の商品やサービスって素晴らしいね」と覚えてもらい、会社や個人の強みを生かしながら、さらなる成長を遂げた。

 一方、傾いた企業は利益を追求するあまり、よりよい社会を実現するために必要なミッションを失ったのかもしれない。社会貢献を失った企業は人々から忘れられたり、悪い覚え方をされたりして、やがて傾いた。

 ここまではドラッカーのエッセンスの初歩的な部分だが、すでに彼の思想の偉大さを感じる。

■上司とは組織の成果に責任を持つ真摯さを持った人物

 さらにマネジメント論は、マネジメントを行う上司の在り方も説く。私たちが理解するマネージャー(=管理者)とは、「部下の仕事に責任を持つ者」。しかしドラッカーは「組織の成果に責任を持つ者」と定義した。

 マネージャーの仕事は人間の育成に関わり、育成の方向が部下の「人間としての成長」を決定づける。同時に部下を正しい方向に導き、豊かな人間になる助けとなれるかどうかが、マネージャー自身の成長を決定づける。

 このような仕事を担うマネージャーに求められる資質は「真摯さを持った人柄」だ。これぞマネージャー登用への絶対条件。

 自身が理想の上司になれるかどうかは、ドラッカーを読めば理解・確認ができる。同時に自身の上司の質もよく理解できる。経済的な問題だけでなく、上司と部下の関係に悩む日本社会で、ドラッカーの思想は誰もが理解すべき理論だと感じてならない。

■上司をマネジメントする重要なポイント

 経営者を除けば、会社の人間なら誰もが上司を持つ。中間管理職のようなマネージャーが成果をあげるには、その上にいる上司ほど重要な存在はない。

 驚くべきことにドラッカーは、部下の立場から上司をマネジメントする重要性も説く。本書では5つのポイントが解説されており、そのうち3つだけご紹介したい。

(3)上司もユニークな個性を持つ人間であることを認識し、その個性に合わせた報告の仕方を工夫する
(4)上司が得意とするものは何か、強みは何か、弱みや課題は何かを知り、部下としてフォローする
(5)自分に何を期待してよいか、自分や自分の部下は何に力を入れているかについて、上司に十分理解してもらう

 ドラッカーを理解すれば、上司と部下が円滑に業務に取り組む理想的な関係をイメージできる。本書を読めば読むほど、ドラッカーが説いたマネジメント論の素晴らしさと奥の深さを体感する。

 彼の経営思想を学んで損はない。絶対に。

文=いのうえゆきひろ