メンタルは鍛えるものではなく、あやつるもの。箱根駅伝2019で驚異の猛追をみせた青学、その強さの秘密とは?

スポーツ・科学

2019/3/26

『青学駅伝選手たちが実践! 勝てるメンタル』(原 晋、根来秀行/KADOKAWA)

 2019年箱根駅伝。青山学院大学(以下 青学)は5連覇、そして2年ぶりとなる大学駅伝三冠を目指して挑んだが、2位という結果に終わった。

 レースを振り返ってみると、4区と5区がブレーキとなり往路は6位、復路のスタート時点で5分30秒差という局面から3人が区間新記録の走りを見せ、青学は復路大会新記録を叩き出すというドラマチックな展開。その劇的な追い上げに感動した人も多いことだろう。

 そんな青学のメンタルの強さについて徹底解説した書籍『青学駅伝選手たちが実践! 勝てるメンタル』(KADOKAWA)が先日発売された。

 本書では箱根駅伝2019のあの出来事を振り返りつつ、「勝てるメンタル」をテーマに、青学の名将・原監督のマネージメント論と、ハーバード大学医学部客員教授の根来秀行氏による科学的なメソッドが紹介されている。それぞれの世界の第一線で活躍する二人の対談ページでは様々な方向に話が展開し、陸上だけでなく、スポーツ、そして日常生活においても有効なたくさんのヒントが詰まっている。

撮影=高橋賢勇

アスリートに必要なメンタルとは

 昭和の文化で育った世代は、メンタルと聞くと「精神修養」的な、心を鍛えるといった方向に考えてしまいがち。日本では伝統的に鍛錬が重視され、自分の精神状態を最適に保つ技術がいまだに見過ごされてきたのではないか、と感じざるを得ない。
 良いランナーというのは、「これだけのトレーニングをすれば、これだけ結果が出る」という方程式を着実に実現できる選手だと原監督は言う。そういった選手は「勝つメンタルを持ち、しかもいろいろなシチュエーションでの『勘』が働く。
 箱根駅伝2019で区間新記録を出した森田歩希選手は、2018年11月下旬から股関節の痛みを訴え、12月上旬の重要なポイント練習を3回ほど休んでいたという。大切な試合に向け「休んだ方がいい」と感じる時があったのだろう。
「勝つための走り」をするために、自分の体に敏感になれる選手であり、なおかつ自分から「休みます」といえる選手は強い。原監督は強さを示す彼らのスタイルを認めている。

「日本の長距離界では、重要な練習局面で練習を抜いてしまうような選手は弱いとされてきました。私は、彼らは強いと思う。勝つために必要な休養や意思を持っているからです。ですから、私は根性論やストイックなものを尊ぶ風潮に必ずしもくみしません。私は選手たちの『勝つメンタル』を育てるために、陸上界の発想を変えていきたいのです」

 青学は革命を起こしているわけではなく、実は当たり前のことを当たり前に徹底したことで、常に優勝を狙えるチームを作ることができたという。ごくごく当たり前のメソッドが日本の陸上界では非常識になっていたのではないか。原監督はそういった思いも持っている。

「因習に縛られることなく、発想を変える。そして正しいメソッドを導入して指導していけば、それまでの流れを変えることができる。私はそう信じています」

科学的にメンタルを強化する

 原監督と根来教授が取り組んでいるのは、非科学的な指導を排除し、科学的な裏付けをもって選手を指導すること。メンタルは鍛えるものではなく、あやつるものであり、そのスキルが存在する。

 本書では、根来教授が青学の選手たちをはじめ国内外のトップアスリートにも実践している、予防医学ならではの視点からメンタルにアプローチする方法が紹介されている。
 
 実力が互角でも、本番で結果が残せる人と残せない人がいる。トップアスリートともなれば日々のトレーニングで体を鍛え、スキルを磨いているはずだが、いくら肉体や技術が向上しても肝心の本番の気持ち(メンタル)が折れてしまっては勝負には勝てない。
 根来教授いわく、科学的なアプローチによってメンタルを強化することで、体力やスキルは同じでも試合での実力の発揮度が最大で20%程度アップするという研究結果が出ているという。

 根来教授は勝てるメンタルを持っている人についてこのように話す。

「勝てるメンタルを持っている人というのは、『自分の持っているスキルを発揮する土台を整えることができ、ここぞというタイミングで発揮できる人である』と私は考えます。そして、そのためにはまず体をコントロールしている『制御システム』を整えなければ実現しません。実際、医学の進歩により、制御システムである自律神経やホルモンの働きが、心身の健康やパフォーマンスの向上においてもきわめて重要な鍵であることが科学的に解明されてきています」

「勝てるメンタル」は生まれ持っての資質ではなく、日々の行動の選択により自分で培っていくもの。満足のいくパフォーマンスを安定的に発揮したいと考える、アスリートやビジネスパーソンに是非読んでみてもらいたい一冊だ。

【著者プロフィール】
原 晋(はらすすむ)

青山学院大学陸上競技部監督。同大学地球社会共生学部教授。1967年、広島県生まれ。世羅高校では全国高校駅伝準優勝。中京大では日本インカレ5000mで3位入賞。89年に中国電力陸上競技部1期生で入部、故障に悩み5年目で競技生活を終え、同社でサラリーマンとして再スタート。その後、営業マンとして新商品を全社で最も売り上げ、2004年に現職に。09年に同校を33年ぶり箱根駅伝出場、15年に箱根駅伝初優勝に導いた。16年の箱根駅伝では連覇と39年振りの完全優勝を達成。17年に箱根駅伝3年連続総合優勝、大学駅伝3冠。18年には大会新記録で箱根駅伝4連覇。そして、19年の箱根駅伝では往路6位という逆境の中、劇的な猛追で復路優勝を果たす

根来秀行(ねごろひでゆき)
医師、医学博士。1967年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士課程修了。ハーバード大学医学部客員教授、ソルボンヌ大学医学部客員教授、フランス国立保健医学研究機構客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授、杏林大学医学部客員教授、事業構想大学院大学理事・教授。日本抗加齢医学会評議員、米国抗加齢医学会日本学術顧問、臨床ゲノム医療学会理事、日本内科学会総合内科専門医。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたり、最先端の臨床、研究、医学教育で国際的に活躍中