塩、砂糖、しょう油はきちんと選ぶ。包丁は柄まで洗う。忘れたくない“くらしのきほん”

暮らし

更新日:2019/4/8

『くらしのきほん 100の実践』(松浦弥太郎/マガジンハウス)

 近年はインスタグラムを開けば、ハイセンスな暮らしをたくさん眺めることができるようになってきた。所帯じみた暮らしから抜け出したいと思ってしまうし、憧れのインフルエンサーが使っているアイテムを購入することで、“映える暮らし”を手に入れたくもなる。

 けれど、本当に良いものや美しいもの、楽しいものは、買って手に入れるのではなく、自分の手で生み出していくことが大切だ。そう訴えかけている『くらしのきほん 100の実践』(松浦弥太郎/マガジンハウス)は、今あるものを大切にしながら、日々の暮らしを見直せる1冊だ。

「きほん」について僕はこう再定義した。「きほん」とは、あきなくておもしろく、毎日あたらしい気づきと学びがある。
誰とでも分かち合え、いつも自分を助けてくれる宝もののようなこと。
 そして、信じられる、守りたいこと。いちばん一所懸命なこと。つづいていること。うつくしいこと。なによりたのしいこと。

 そう語る著者の松浦さんは、この世にあるすべての「きほん」を100年後の人たちにも伝えたいと考え、ウェブメディア「くらしのきほん」を制作。本書はそのウェブメディア内から100個のアイデアをピックアップし、書籍化したものだ。

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「学び」「家事」「料理の知恵」「料理のテクニック」「きほんの味」「我が家の定番」「あの国のおいしい味」「ドリンク」「スイーツ」「旅」といった、全10ジャンルの「きほん」が写真付きで詳しく紹介されている本書には、一般的なマナー本とはまた違ったおもしろさがある。

 私たちは生き続けていくうちに、暮らしの「きほん」を忘れ、日常をただ過ごしていくようになりがちだ。しかし、「きほん」に戻れば、新たな発見が得られ、自分を成長させることもできる。憧れのハイセンスな暮らしを手に入れるには、まず暮らしのいろはを見つめ直していくことがキーポイントとなるのだ。

■ひと工夫で料理はもっとおいしくなる

 忙しい日々が続くとつい、レトルト食品ばかりを食卓に並べてしまうことも多い。しかし、私たちの身体は口にするもので出来ているからこそ、時にはおいしい料理で自分や家族を労わってみよう。

 本書には初心者だけでなく、料理好きな方も参考にできるレシピやワンポイントアドバイスが丁寧に記されている。

 例えば、あなたは日頃、ほうれん草をどのように洗っているだろうか。松浦さんいわく、ほうれん草は泥の汚れが溜まりやすい根元に切り込みを入れてから流水で洗うのがよいのだそう。大きな株は十字に、小さな株は一文字に切り込みを入れて洗えば、水の勢いで自然に泥が落ちていくのだという。

 食材は洗い方ひとつでも調理後のおいしさが変わってくる。こうしたアドバイスは一般的なレシピ本ではなかなか知ることができないからこそ、貴重だ。本書には手作りポン酢やフレッシュなトマトソースなど、素材を最大限に活かせるレシピも多数収録されているので、そちらもぜひチェックしてみてほしい。

■身近なモノへの感謝を思い起こさせてくれる1冊

 日頃お世話になっているものを、自分はどれだけ大切にできているだろうか。本書には身近なものへの感謝を思い出させてくれる力がある。

 例えば、毎日料理をするたびに使う包丁は刃の部分のみを洗っている方が多いはず。しかし、「きほん」に戻って考えてみると、一番汚れているのは柄の部分だということに気づく。料理中はさまざまな食材に触れた手で何度も柄を掴むからこそ、刃だけでなく、柄も手入れしていく必要があるのだ。

 柄を洗う時はスポンジで刃を持ち、指を切らないように注意。柄だけでなく、刃と柄のつなぎ目も洗うと、包丁はさらに美しくなり、愛着も倍増していく。

 普段は当たり前だと思っていた手入れもよく見返してみると、新たな発見が得られる。そんな気づきを与えてくれるのが、本書の醍醐味だ。

 なお、本書のラストには“あなたのきほん”というフリーページが設けられているのも特徴。本当にハイセンスな暮らしとは、写真映えするだけの暮らしではなく、“映えて心地よく感じられる暮らし”のこと。雑誌やSNSで目にする丁寧で美しい暮らしを実現させるには、今あるものに感謝をしながら、自分が大切にしていることや学んだこと、好きなことなど自分だけの「きほん」を書き残していくことが大切だ。

文=古川諭香