「今月のプラチナ本」は、横山秀夫『ノースライト』

今月のプラチナ本

2019/4/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『ノースライト』

●あらすじ●

一級建築士の青瀬稔は、クライアントの依頼を受けて信濃追分に一軒の家を建てた。個性的な住宅を選ぶ書籍に掲載され、クライアントも喜んでいた家。だが青瀬がその家を訪ねてみると、クライアントの家族の姿は見えず、家具もほとんどない。ただ一脚の古い椅子を残して、クライアント一家はどこへ消えたのか。『64』から6年を経て刊行された、待望の長編ミステリー。

よこやま・ひでお●1957年東京生まれ。新聞記者、フリーライターを経て、1998年『陰の季節』で第5回松本清張賞を受賞し、作家デビュー。2000年『動機』で第53回日本推理作家協会賞・短編部門を受賞。『64』は英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー最終候補に選出された。他の著作に『半落ち』『第三の時効』『クライマーズ・ハイ』『看守眼』『臨場』などがある。 

『ノースライト』書影

横山秀夫
新潮社 1800円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

「自身が住みたい家」に住むべき者は

「あなた自身が住みたい家を建ててください」。そう請われて設計した家から、住んでいるはずの家族が消えた。建築士・青瀬はその一家の事情を探るが、「自身が住みたい家」はまるで鏡のように、青瀬自身の家族の物語をも浮かび上がらせる。青瀬は、家にいるはずの者=家族を、二重に追っていくことになる。今回は警察小説ではないが、自分の仕事に向き合い、その向こうに自分の大切なものが見えてくる構造は横山作品の真骨頂。謎以上に、謎を解く人間を描き出すミステリーだ。

関口靖彦 本誌編集長。社内レイアウト変更のため、ため込んだ書籍を整理……できない。どの本にも美しい物語が潜んでいそうで、断捨離なんて不可能です。

 

建築好きもそうじゃない人も

昔、ヨーゼフ・ホフマンの家具が好きで、彼と同時期の建築家の作品ということで「落水荘」もステキだな〜なんて思っていた。なので作中に「落水荘」が登場したり、建築家がデザインした椅子が謎を引っ張っていったり、と個人的にはわくわくするアイテムだらけ。そしてバブルに翻弄された主人公の青瀬が、建築士としてのプライドを取り戻していく様と謎が絡み合い、最後まで目が離せなかった。ちょうどプリツカー賞で日本の建築家が脚光を浴びている時なので建築に興味がわくかも。

鎌野静華 最寄駅と自宅の間にサルスベリの並木道がある。この冬かなり大胆に剪定されて花咲くんだろうかと心配だったが、すでに新芽が。初夏が楽しみ!

 

その椅子にはいったい誰が座る?

装丁から仄暗い物語を想像して読み始めたが、中盤以降の展開で一気に覆された。バブル崩壊をきっかけに職場と家族をともに失った主人公のベテラン建築士・青瀬は、それでも設計をすることが好きなのだった。その感情が物語を大きく揺り動かしていく。いくらオッサンを気取っても、芸術に焦がれる青瀬と彼の相棒・岡嶋の姿に嘘はない。家屋は実用性が前提だが、それだけで人の心は動かない。Y邸という一つの家が人々の心を捉え、彼らに寄り添ってその希望となる様に胸が熱くなった。

川戸崇央 そういう意味では今月のトロイカ学習帳も真面目で胸熱。トロさんが亡き義父についての評伝を執筆。触発された画伯も……必読!

 

興奮収まらぬ待望すぎる新作

『64』から6年。横山秀夫さんの新作を読めるという興奮は抑えきれぬまま一日で読み切ってしまったが、今作は警察小説でもない。事件が起こるわけでもない。建築とタウトの人生をめぐる、帯にあるように「美しい謎」にせまるミステリーではあるが、ジャンルで分けるなら人間ドラマだ。「渡り」の生活を送ってきた主人公・青瀬の強い「建築家としての情念」がドラマを展開させていき、欠落した人生から足を進ませ、再起の結末へ向かわせる。文章から伝わる〝熱量〟に圧倒される。

村井有紀子 塩田武士さん長編『デルタの羊』(P63)、担当のくせに「これ早く単行本で読みたい」と言い出してしまうほどの第2章ラスト(伴走し頑張ります)。

 

足りないものを埋めていくこと

Y邸の全貌と共に本作の謎が姿を現す描写に圧倒される。ノースライトの薄明かりで浮かび上がる、空間の静謐さやひりつくような緊張感に引き込まれた。この雰囲気をまといながら、家族の喪失と再生をテーマに物語は進む。中でも登場する孤独な画家の言葉に胸を打たれた。「埋めること 足りないものを埋めること 埋めても埋めても足りないものを ただひたすら埋めること」。創作への決意の言葉だが、喪失を経験しても新しい何かへ歩みだそうとする全ての人生へのエールとして受け取った。

高岡遼 今号でプラチナ本の寸評を書くのも最後になりました。まる4年。右も左も分からぬピヨピヨ新卒からあっという間でした。ありがとうございました!

 

タイトルの意味がじわりと沁みる!

「何が大切で何が大切でないか。何が許せて何が許せないか」。人が家を建てようとするときに滲み出てくる価値観は、その人の過去に根差しているという一節に納得。家というのはやはり、家族観を表すのだなぁ。そんな本書に出てくるのは、ちょっとずつ家族に失敗した人ばかり。南向きに家を建て、明るい光のなか生きていくつもりが、うまくできなかった。でもそういう人は「ノースライト」の家を作れるのかもしれない。南からの光と違う、仄かで優しい「北からの光」で満ちた家を。

西條弓子 この季節、さくら味のお菓子を見つけると反射で買ってしまうのです。べつに好きじゃないのにどうして……。春の魔物の仕業ですかな?

 

著者の作品作りへの想いにしびれる!

横山さん待望の新刊! 相変わらず繊細な人物描写と緻密な物語構成は抜群。でも今回一番刺さったのは登場人物たちの「作品」に対する想いと熱さ。特に岡嶋の「自分が生み出した、自分の魂が乗り移った家に帰りたがる(中略)お前にはあるが、俺にはない」というセリフには、モノ作りへの渇望と苦しみがこれ以上ないほど詰まっている。その気持ちが物語を動かし、読み手の心もゆさぶる。横山さんの仕事の流儀……いや、作家・横山秀夫そのものを垣間見たと錯覚するほどの想いを感じた。

有田奈央 映画にドラマに小説にマンガに舞台にフェス……4月は待ちに待ったエンタメ月間! お金と体力と時間は消えますが、推しに全力で浪費します。

 

静かに熱い大人のミステリー

建築家がある家にまつわる謎をひとつずつ丁寧に解き明かしていく、静かなミステリー。けれど、それと並行して描かれる家族や仕事の物語に、だんだんと心が熱くなる。ここに登場する大人たちはみな不器用だけど、「誰かのために創り、遺す。その思いが火よりも熱いことを理解して」いる。そんな彼らがクライアントのため、家族のため、仲間のために奔走するひたむきな姿は紛れもなく美しかった。屋根から差し込むノースライトのような、じんわりとあたたかな気持ちで読了しました。

井口和香 先日、Maroon5の来日公演へ。圧倒的なパフォーマンスに、「これがスターか!」と心が震えました。あれだけの人数の前で歌うの、気持ちいいだろうなぁ。

 

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