親の「死体」と暮らすひきこもり世代の心の闇。孤立する家族をどうサポートするか?

社会

更新日:2019/4/10

親の「死体」と生きる若者たち

著:
出版社:
⻘林堂
発売日:
『親の「死体」と生きる若者たち』(山田孝明/青林堂)

 2018年9月2日、長崎新聞に以下の記事が掲載された。

“長崎市で2018年8月、母子2人暮らしのアパートで母親=当時(76)=の遺体が見つかり、息子(48)が死体遺棄容疑で長崎署に逮捕された。関係者によると、息子は無職で長年ひきこもり状態だったという。(中略)息子は「4、5日食事を取らないし、(母親は)やっぱり死んでいたのか。亡くなっているということに気付かなかった」と供述し、容疑を否認しているという”

 近年、50代のひきこもりと80代の親が社会的に孤立し困窮する「8050(はちまるごーまる)問題」が深刻化しており、この事件の母子もそれに近い状態だったとみられる。

『親の「死体」と生きる若者たち』(山田孝明/青林堂)は、その「8050問題」に対して解決支援の視点から切り込んだ1冊だ。著者は40~50代のひきこもりの子を持つ家族のサポートに特化した「市民の会エスポワール」を主宰している。

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■「ひきこもり」世代の高齢化が進んでいる――

 注目したい調査結果がある。平成22年度に内閣府が発表したひきこもり統計調査では、その総数が70万人であった。その5年後、平成27年度の調査では52万人となっている。70万人から52万人への減少。その推移だけを見れば、ひきこもり問題は改善しているように見える。しかし実は、それらの調査のひきこもりの対象は18〜39歳に限定されたものだった。つまり、40歳以上のひきこもりの人数は含まれていない。22年度調査の内訳では35〜39歳のひきこもりは17万人いると発表されていたが、その後、その17万人の行方はどうなったのだろうか――。

■ひきこもりは個人ではなく「家族全体」にとっての問題

 2018年11月5日の神奈川新聞には以下の記事が掲載された。

“2018年10月中旬ごろ、自宅に母親(76)の遺体を遺棄したとして、神奈川県警金沢署は2018年11月5日、死体遺棄の疑いで、横浜市金沢区の無職の長男(49)を逮捕した。長男は「10月中旬ごろに母親が倒れた。何もできなかった」などと筆談で説明、容疑を認めている”

 なぜ通報しなかったのかと尋ねたところ、この長男は「人と話すのが怖い。妹が家に訪ねて発見すると思っていた」などと説明したという。取り調べで彼は筆談でのコミュニケーションをしていた。家で親が死んでいると分かっていても、社会からしばらく遠のいている彼にとっては、どうすればいいのかわからなかったのだ。また、冒頭の長崎市の事件のように、親が死んでいるということすら正しく認識できていない場合もある。

 著者によると、ひきこもり家庭は外部に助けを求めないことも多いという。だが、ひきこもりを「家庭の病理」と認識しておくことが重要だと著者はいう。その認識を持たない家庭が、子どもの面倒を見続け、後戻りのできない事態に陥ってしまうこともある。まずは、ひきこもり家庭が支援の場と繋がることが大切だ。そして、ひきこもり家庭と縁のない人でも、ひきこもりという病理が、高齢化問題と並行して社会に存在していることを知っておくべきだろう。

 著者によると、ひきこもりの彼らは自分たちが抱える本当の苦悩を周囲に打ち明けづらいという。一般的にひきこもりからの「自立」というと、就職を意味していると思われがちだが、著者は、「自立」を“自分の声を上げること”だと考えている。彼らの心の問題を見つめ、支援する場所が社会にはきちんと存在している。目にはつきにくいが深刻な状況にある「8050問題」の対策は急務だろう。

文=ジョセート

この記事で紹介した書籍ほか

親の「死体」と生きる若者たち

著:
出版社:
⻘林堂
発売日:
ISBN:
9784792606510