軍艦巻は〇〇だった!?「ワサビは醤油に溶かすか否か」の真相は? 極上の寿司ネタ本!

食・料理

2019/4/26

『読む寿司 オイシイ話108ネタ』(河原一久/文藝春秋)

 寿司が好きだ。子供の頃は「毎日食べられるから」という理由で寿司職人になりたかったし、ちょっと特別な日に「なにを食べたい?」と聞かれたら迷わず寿司と答えていた。それは大人になってからも同じで、刺身じゃなくどうしようもなく寿司が食べたくなる日がある。『読む寿司 オイシイ話108ネタ』(河原一久/文藝春秋)を読んだ今、いてもたってもいられない。あとで近所の回転寿司に駆け込もうと決めながら、この文章を書いている。

西麻布の閑静な住宅街に佇む「寿司勇」の赤身

 本書にはタイトルどおり、寿司にまつわる小話が108つ集められている。握り寿司誕生の背景にあった江戸末期のグルメブーム、「サバを読む」の語源となったサバの押し寿司がバッテラと呼ばれるようになった理由、江戸前に対する蝦夷前・小倉前寿司の特徴など、「そうだったのか!」という驚きと発見に満ちた一冊だが、なにより感動したのは隅々にほとばしる著者の寿司に対する愛と敬意だ。

 巻末の6ページにわたる参考文献も圧巻だが、驚いたのは、著者は映像ディレクターで映画評論家であるということ。ヨーロッパから訪日した友人夫妻が、自国で食べてきたのとはまるで違う寿司を食べて感動のあまり涙を流した、という経験から、寿司をひとつの文化としてとらえなおし、食べ歩きを続けてきたという著者。専門家ではなく「寿司が好きな日本人」の一人として語ってくれる歴史や文化の蘊蓄は、好奇心を満たすと同時に食欲をそそる。

 おもしろかったのは、マグロがもともと下魚として不人気なネタだったということ。それから、関東大震災で起きた物資不足が「軍艦巻」のもととなる寿司を生んだこと。その軍艦巻を銀座久兵衛が生み出したときは、NHKにゲテモノ扱いされたこと。本書にも書かれているとおり、アメリカのカリフォルニアロールを見て「こんなの寿司じゃない!」と言う日本人は多かった。だが今やあたりまえのように回転寿司で流れるエビマヨやツナマヨの軍艦は、カリフォルニアロールがあったからこそ生まれたネタだ。

ウニはかつては鮮度の問題で“握れないネタ”だったという。その後、軍艦巻誕生に繋がり、今では握ることも可能なほど鮮度を保つことができるように。もちろん職人の腕は必須!

 近頃では本当かフェイクかわからないマナーが巷を跋扈しているが、文化とは、変わらない伝統であると同時に、時代にあわせて常に変化していくもの。〈「変わり種」を否定してしまったら、実は寿司そのものの未来を否定することになってしまう〉とあるように、守られるべきものと受け入れるべき変化を常に照らし合わせながら語られているのも読んでいて楽しい。よく聞く「ワサビを醤油に溶かすか刺身にのせるか」問題についても、「マナー違反と報じるメディアは概して説明不足」としたうえで、実際の知識を教えてくれる。

 どこをとっても興味深いネタばかりだったが、個人的には「自分好みの寿司店探しを婚活に見立ててみたならば」の章が好きだった。店選びに間違いなどない。ただ好みがあるだけだ。そして著者の言うように、男女関係と違って浮気しても咎められないのだから、おおいに冒険すればいい。「ひとり寿司のススメ」の章にも勇気をもらったので、ぜひとも、自分だけの寿司屋探しにチャレンジしてみたい。

文=立花もも

撮影 著者(西麻布「寿司勇」より)