鍵アカ・裏アカで愚痴吐くよりスッキリする方法! アウトロー俳人が教える地獄を生き抜く術

文芸・カルチャー

2019/4/21

『生き抜くための俳句塾』(北大路翼/左右社)

 ブラック企業、面倒な人間関係、不安の多い金銭問題、しんどい失恋、漠然とした将来への不安…。生きていると、「地獄」のようなことってこんなにあるんだなぁと思うほど毎日本当に色々なことがある。

 そう感じ、ボロボロになっている人ほど、俳句が“効く”らしい。なぜなら、俳句は「抵抗の詩」だからだ。そう語るのは、『生き抜くための俳句塾』(北大路翼/左右社)の著者であり俳人の北大路翼氏。俳人の中でも「アウトロー」として知られる人物で、小学校高学年ですでに酒と博打デビューしていたという筋金入りの怖い人だが、同時期に目覚めたのが「俳句」だったそうだ。

“さくらまんかいにして刑務所”(種田山頭火)

 この句が反抗期の心にどハマりした。

 著者が家元を務めている新宿・歌舞伎町を拠点とするアウトロー俳句グループ「屍派」では
歌舞伎町の住人たちを中心に、依存症を抱えた人、女装家、双極性障害、元ホスト、など実にさまざまな人たちが俳句を詠む。そこでは、自分が味わった苦しみへの「抵抗の詩」が数多く詠まれる。しかし、なぜ俳句で抵抗するのだろうか?

 その理由は「吐き出し、新しいエネルギーを入れる」ためだという。悩みでずっしりと重くなってしまった頭も、俳句を吐き続けるようにすると、「新しいエネルギーの余地」ができるそうだ。悩みを抱えやすい人というのは、考えるだけに集中しているから新しい考えが入ってくる余地がないことで悪循環に陥るのだ、と著者は語る。

 現代社会で何かを「吐き出す」と言えば、一番手っ取り早いのはTwitterなどSNSの鍵アカだろう。確かに、ごく限られた人しか見られない鍵アカで吐けば一時は発散できる。でもそれは気休めでしかなく、あとで自分の吐いた毒まみれのタイムラインを見ると、自己嫌悪に陥ることだってあるだろう。

 一方、俳句については、「俳句では地獄も栄養」「ギリギリのところで抗うのが俳句」らしい。

 その言葉に力づけられ、すごく落ち込んだ日の帰り道に、電車の中で自分の気持ちを「五・七・五」にしてスマホのメモで打ってみた。そうしたら、なぜか妙に満足感を得ることができたのだ。あった出来事を五・七・五で並べただけ。かかった時間は2分ちょい。それでも、俳句という「作品」を完成できたのがうれしかった。

“鍵アカ”じゃこの感動は得られない。

 なんだか難しいイメージが付きまとう俳句。しかし、この本では誰も脱落しないようなわかりやすい俳句の作り方を教えてくれる。その名も「俳句のプログラミング」だ。著者が俳句を作る時に「自分の脳内ではどのような作業が行われているか」という視点で、俳句知識ゼロの超初心者でもわかるように解説してくれる。たとえば、俳句のお題が「ミカン」だったとしよう。

【まずミカンを思い浮かべる】
この時、ジャンルを「意識的」に外してみる! 食べ物だと思うと、「美味しそうなミカン」「腐ったミカン」といった発想で止まってしまうが、ジャンルを外せば「情けないミカン」「意地悪なミカン」「死んでるミカン」と世界はぐんと広がる。
【そこに肉付けという連想を行う】

 ステップはこんな具合だ。このプログラミングは本書の紹介の一例だが、これだけでも一気にそれっぽい俳句ができるようになる。

「桜を“さくら”と平仮名で書いて優しく見せる」とか「ピアスとタトゥーを若者の象徴としてあげる」などのような小手先のテクニックじゃないのだ。「自分が持つ世界」を糧に、俳句の世界が無限に広がっていく。とにかく使える俳句プログラミングを惜しみなく教えてくれるのがこの本だ。

 本書ではそんな俳句入門のほかにも、俳句グループ「屍派」の実際の句会の実況中継や、著者が厳選した「魂の二十五句」とその解説、さらには悩み相談に著者が沁みる俳句で答えるコーナーなど、読み物としてもボリュームたっぷりだ。

 五・七・五、そのたった十七文字でひとつの文学作品を完成させてしまう俳句。高いと思い込んでいた敷居を取っ払って、遊んでみると案外おもしろい。あなたの抱えるモヤモヤ、毒、傷。…これらも俳句にしてしまえば、また強く生きていけるかもしれない。

文=おへそ半島