5年ぶりのシリーズ続編! 小野不由美『営繕かるかや怪異譚』の世界

小説・エッセイ

2019/8/8

 小野不由美による新たなシリーズ「営繕かるかや怪異譚」待望の続編が刊行された。建物の修理を生業とする営繕屋の尾端は、本作でも建築にまつわる数々の怪異と出会う。忍び寄る恐怖の先に、どこか優しい感動が待っている、シリーズの魅力を読み解く。

『営繕かるかや怪異譚 その弐』書影

『営繕かるかや怪異譚 その弐』
小野不由美 KADOKAWA 1600円(税別)
かつて弟が自殺した部屋から見える隣家で、三味線を爪弾く女はこの世の者ではないのか(「芙蓉忌」)。子供の頃に出会った鬼の正体とは(「関守」)。事故死したはずの猫が戻ってきたかのような怪現象の原因とは(「まつとし聞かば」)……建物にまつわる6つの怪異を営繕屋・尾端が解き明かす短編怪談集。

 

おの・ふゆみ●12月24日、大分県中津市生まれ。1988年作家デビュー。2013年『残穢』で山本周五郎賞を受賞。著書に『魔性の子』『月の影 影の海』ほか「十二国記」シリーズ、「ゴーストハント」シリーズ、『東亰異聞』『屍鬼』『黒祠の島』『鬼談百景』などがある。今秋には「十二国記」シリーズの新刊が発売予定。

 古い城下町のそこかしこに存在する、奇怪な出来事が起こる家。脅かされる住人たちの苦悩を、営繕屋の尾端がちょっとした助言で解消してゆく――2014年に刊行され、大きな話題を呼んだ小野不由美の怪談集『営繕かるかや怪異譚』から早くも五5年。雑誌『幽』やその後継誌『怪と幽』に掲載されてきたその続編が、このたび『営繕かるかや怪異譚 その弐』として単行本化された。

 このシリーズは、「ゴーストハンターもの」と呼ばれるタイプのホラーに属している。ミステリーにおける名探偵が合理的に事件を解決してゆくように、オカルト現象の原因を突きとめ、怪異を鎮めるのがゴーストハンターの役割だ。古典的作例としてはアルジャナン・ブラックウッド『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』やウィリアム・H・ホジスン『幽霊狩人カーナッキの事件簿』などが知られているし、小野不由美自身の小説でいえば、「悪霊」シリーズ(現在は改稿されて「ゴーストハント」シリーズ)がまさに典型的な作例である。

「営繕かるかや怪異譚」シリーズの尾端も、そうしたゴーストハンターの系譜に連なるキャラクターである。だが、先達たちと比べて、彼には大きな特徴がある。それは「個性がないのが個性」とでも言うべきものだ。基本は単なる大工だと称する彼は、若い男性であるということ以外、作中に個人的な情報が殆どない。印象としては、限りなく無色透明。下の名前は不明だし、苗字が設定されているのも、なければ不便という物語の展開上の都合にすぎないだろう。また、心霊学や神秘学の専門知識を身につけた先達たちに対し、彼はそういう方面に格別に詳しいかどうかはよくわからないし(ただし、建物に関連することならば、古来の言い伝えなどに通暁しているようだ)、霊感が強いわけでもない。

 家の修繕という自分の仕事についてプロフェッショナルに徹している以外は、基本的にはごく普通の人――というのが尾端から受ける印象である。だが、そんな彼が、作中では途轍もなく頼り甲斐のある存在と感じられるのは何故だろうか。

 例えば、専門知識のない大抵の人は、使っているパソコンが壊れたらその時点でお手上げである。エアコンにしてもTVにしても、故障したら自力で直せるという人は少ないはずだ。そんな時、専門の業者はとにかく頼りになる。尾端というキャラクターから感じられるのは、そういう業者の頼もしさなのだ。

 だから尾端は、営繕という自分の仕事の範囲を超えて心霊的な蘊蓄を語ったりはしない。霊を祓うなどして現象を完全に鎮めるわけでもない。依頼者に応急措置的な助言をするだけである。そして「営繕かるかや怪異譚」シリーズのユニークさは、そういった日常的な助言が、彼岸と此岸の橋渡しになっている点にある。例えば、第2弾である本書には、隣の家にいるはずのない女の姿が見える……といった一見穏やかな怪異から、かつて死んだ友人らしき姿が水の臭いを漂わせながら近づいてきたり、屋根裏に片目や片足のない血みどろの男がいたり……といったおぞましい怪異に至るまで、さまざまな現象が描かれる。しかし、いかにも禍々しい怪異が、呪詛だの怨念だのといった害意を秘めているとは限らないし、逆に害などなさそうな現象が人を死に誘う場合もある。

 そういった怪異を体験した各話の主人公たちは、それがこの世ならぬ現象であることは認識しても、怪異が伝えようとしているメッセージは読み取れない。それは当然で、この世の者同士ですらわかりあうのは難しいのに、あの世の者のメッセージをどうしてこの世の者が正確に理解し得ようか。

 尾端は、あくまでも自分の専門からはみ出さない範囲での助言によって、あの世の者がやりたいことや伝えたいことが何かを教えてくれる。普段、私たちがパソコンやエアコンのピンチの際に接する業者が、その仕事の延長で超常現象の解明もサーヴィスしてくれるようなものだ。そう考えると、尾端というキャラクターはどんな霊媒師や悪魔祓い師よりも不思議な存在だと感じられはしないだろうか。あくまで日常を拠点としながら彼岸の声を聴き取り、此岸に伝える者――それが尾端なのだ。

文=千街晶之、朝宮運河(絵解き) イラスト=漆原友紀

カバー絵絵解き

【特設サイトより】カバーに潜む怪異を絵解きする

『蟲師』『猫が西向きゃ』等で人気のマンガ家・漆原友紀によるカバーイラストに封じ込められた怪異を徹底分析。

(1)押入の上の段
両親とともに、祖母の家に引っ越してきた小学6年生の樹。ひとりになれる空間が欲しかった彼は、押入の上段を個室代わりにすることを思いつく。偶然覗き込んだ押入の天井裏には、思いも寄らない光景が……。(「まさくに」より)

(2)座敷の奥に坐り込む人影
小学5年生の夏休み、県境の川に出かけた弘也は、友人が流されて死亡する現場に居合わせる。自分は彼を見殺しにしたのではないか。そう悩む弘也はある日、鏡に映った背後の座敷に、膝を抱えた男の子の影を見かける。(「水の声」より)

(3)忍び込んでくる猫
妻と別れ、小学生の息子とともに実家で暮らし始めた俊弘。息子の航は、家を出たまま帰ってこない飼い猫の小春を、今日も待ち続けている。そんなある日、航が“ゆうべ小春が帰ってきた”と言い出して……。(「まつとし聞かば」より)

(4)神社へと続く“背戸”
城下町の旧市街。佐代が子供時代を過ごしたその町の一郭には、小さな神社があった。ある日暮れ、佐代はそこで何かとてつもなく怖いものに出会った。「通りゃんせ」の童歌に導かれ、失われた記憶がよみがえる。(「関守」より)

(5)壁の向こうにいる女
故郷に帰ってきた貴樹は、亡き両親と弟が住んでいた古い町屋で暮らし始める。隣家に面した壁の隙間を覗いてみると、紅い着物の女がこちらに背を向けて坐っていた。その女から、貴樹は目が離せなくなってゆく。(「芙蓉忌」より)

 

推薦コメント

読んでいるときはぞっとしてドキドキして、
読み終わったときにはほっとする。
こんな怪談が読みたかったし、書きたかった。
織守きょうや(作家)

怖いの苦手なのに、一気読みでした。
涼しい部屋なのに、汗びっしょりです。
部屋の明り、全灯で寝ます。
平和書店TSUTAYAアルプラザ城陽店 奥田真弓

五感の全てを刺激され
想像は無限にかき立てられ
怪異から生まれた情に涙する。
三省堂書店有楽町店 内田 剛

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