老化を怖いと思っていませんか? 自分のことがより愛おしくなるための正しい老化のススメ

マンガ

公開日:2019/8/15

『老いる自分をゆるしてあげる。』(上大岡トメ/幻冬舎)

 老化予防には抗酸化作用のある食べ物が良いという説があり、それを売りにしているサプリメントも巷にあふれているのだけれど、その理屈がどうにも分からない。食べた物をエネルギーに変えるのには酸化が必要で、体を守る免疫反応を起こすのもまた酸化作用だ。美肌効果が期待されるビタミンCだって、酸化しなければ役には立たない。だからこそ人間は酸素を吸っているわけで、酸化を止めたら死んでしまう。まぁ、死んだら老化もしないわけだが。攻撃的な活性酸素だけを抑えるとする解説も見かけるものの、人間の体は機械ではないのだから、食べ物やサプリメントでそんな選択的な作用を起こせるものなのか疑問が残る。そもそも老化とは科学的にどういう現象なのかと思っていたところ、面白い本に出会った。

 ただし、この『老いる自分をゆるしてあげる。』(上大岡トメ/幻冬舎)を見つけたのは、老後のメンタルケアの本も探していて、それらしいタイトルだから手にしてみた次第。ところがこれが嬉しい誤算で、メンタル的な老化の考え方を、現代医学に基づいて提示していて、まさに一石二鳥という内容だった。本書は単なるコミックエッセイではなく、医学博士や薬学博士に理学療法士など5人の医療者への取材をもとに、作者が謎の「おばあさん」アン(81歳)に導かれて「老化」について学んでいくという、学習漫画のような体裁である。

 まず、「歳をとる」というのはどういうことか。セミは7年近く土の中にいて、地上に出て成虫になると交尾し、産卵を終えると死んでしまう。マウスは、死ぬ直前まで生理がある。一部の哺乳類を除けば、自然界では「生殖できなくなる」のが死期であるのに、人間が「閉経」しても生きていけるのは、衛生状態や栄養面での環境が良くなり、医療の発達によるものではないかというのが一つの仮説だ。また、歳をとったマウスと若いマウスの皮膚を縫い合わせて2匹の血液が混じり合うようにした実験の結果が興味深い。なんと若いマウスが急速に老化し始めたそうで、これは「老化のスイッチ」が入ったと考えられ、あらかじめ「老化のプログラム」があることを示唆している。もし老化が加齢による経年劣化なら、血液を混ぜたからといって若いマウスの老化が始まるとは考えにくいからだ。

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 そんなわけで、老化が仕組まれたプログラムの発動によるもので防げないとしても、「健全に老化する」のを目指すことはできるというのが本書の主題。ぶっちゃけて言えば適度な運動のことで、それ自体は新鮮味のある話ではない。しかし、よく知られていないインストラクターが独自に考案したようなトレーニングとは違い、医学的な裏付けのある方法が紹介されている。「軟骨は骨じゃない」とか、骨はカルシウムでできているというより「カルシウムのストックになっている」のが実態で、心臓の拍動や筋肉の収縮、細胞への情報の伝達など、その役割は多岐にわたっているなんて話も、トレーニングをするうえで役に立つ知識だろう。

 そして忘れてはならないのが、「感情も歳をとる」ということだ。歳をとると涙もろくなると云われているのは、「アフェクティブエンパシー」によるもの。長く生きていれば経験も増えていき、それが他者との共感のポントになる。いわば感情を動かされるスイッチが増え、その副産物の一つが「泣く」ことのため、嬉しくても哀しくても反応しやすくなるのだ。さらに、高齢者による車の暴走事故は一般的には認知機能の低下と思われているが、実は逆。脳は歳をとるほど「活動過多」となり、頭の中が常に「とっちらかった部屋」で探し物をするかのような混乱状態が見落としや不注意を増やすため、脳をクールダウンさせる対策が必要となる。

 書中で、江戸時代の本草学者である貝原益軒の「養生せずに病気になってから薬を服用したりするのは下策である」という言葉が紹介されているように、老化の知識を身につけないで特定の食品やサプリメントに老化予防を頼るのは下策というもの。その投資は本書に回すことを、オススメしたい。

文=清水銀嶺