50代はカモ!? 定年前後に手を出してはいけないお金の話

暮らし

2019/8/19

『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(山中伸枝/東洋経済新報社)

 世間では、「老後の生活には2000万円の貯蓄が必要」という話が大きく取り上げられた。真偽のほどは定かではないが、多くの人が老後の生活に不安を抱いているのは間違いない。特に経済的な面に対して、心もとないと感じているのではないだろうか。自分の将来について悩むのは悪いことではないが、散々悩んだ挙げ句に、最悪の結果を招くという人は少なくない。その理由は日本人があまりにも「お金の話」に無頓着だからである。

『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(山中伸枝/東洋経済新報社)では、50代を「カモ期」と呼ぶ。これには2つの意味がある。1つ目の理由は、「金融機関の甘い言葉でカモにされる」からだ。50代というのは、ある程度まとまった資産を持っていることが多く、それを狙って金融機関や保険会社などが呼んでもいないのに集まってくる。そして、口車に乗せられて、資産を奪われてしまうのである。

 もう1つの意味は、本人の気分の問題だ。50代は経済的な余裕が生まれやすいため、「金持ちになれたかも」「定年後も安心かも」と気持ちが緩みやすい。心が緩めば油断が生まれ、気づいたときには苦しい状況に追い込まれてしまう。だからこそ、50歳を過ぎたら「お金」について改めて考え直す必要があるのだ。

 本書では、50歳を過ぎてから考えるべきお金の話について、「収入」「投資」「保険」といった分野ごとに解説している。だが、どの分野においても失敗に陥る原因には共通点がある。それは、「自分を過信している」という点だ。

 たとえば「保険」の章で、さまざまな保険に加入し、資産形成を目指した人の話が出てくる。たしかに保険に関する知識を持ち、形態の異なる保険に複数加入することで「リスクヘッジ」を行おうとした点は良かったのだろう。ところが、そもそも「保険の本質」を理解していなかったために、資産形成どころか大幅な元本割れとなってしまった。

 日本人は特に保険が好きらしいのだが、保険というのは決して資産形成にならないという。相続税対策などと謳う商品もあるが、相続税には3000万円以上の控除があるため、多くの人には関係がない。そしてもっとも重要なのは、日本が「国民皆保険」という制度を持っていることだ。公的保険によって、ほとんどの医療が大幅に減額される。高額な医療費がかかる治療も、保険さえ適用されれば高額療養費制度から還付を受けられる。つまり、民間保険は最低限で充分なのである。高額な生命保険のために、高い保険料を支払うのはリスクが高すぎるのだそうだ。

 このほかにも、「投資経験もないのに退職金で投資を始める」「退職で収入が減ったのに生活水準を下げられない」「退職金で贅沢を始める」といった失敗談が目白押しだ。そのすべてが、「50代を迎えた自分の立場を正確に理解できていない」ことから起きるトラブルである。50歳を超えて考えるべきなのは、「今ある資産をいかに維持するか」だ。決して、贅沢することや投資で儲けることではない。必要なのは、「収支が黒字になること」である。

 収支を黒字化する方法は2つしかない。収入を増やすか、支出を減らすかである。健康なうちは、たとえ30代40代より少ない収入でもしっかり働くべきだ。投資も収入を増やす方法だが、リスクの高いものは避けるべきだし、その前にきちんと勉強する必要もある。支出を抑えるには、とにかく生活を見直すことが大切だ。加入している保険も、不要なものがあれば解約する。老後を迎える準備として、生活のダウンサイジングを始めておけば、将来的に貧困で苦しむ可能性を低くできる。

 50歳は1つの節目だ。それまでの常識や価値観を見直し、改めてお金について考えるべき時期である。同時に「カモ期」であることも忘れず、他人の言うことに惑わされないよう注意を払うべきだろう。本書は著者が実際に出会った「カモ期」に失敗した人たちの話を交えながら、「どうすればカモ期を乗り切れるか」について書かれた本である。老後をむやみに心配する前に、正しい知識を身につけて対策を打つべきだ。そのために役立つ知識がこの一冊には詰まっている。

文=方山敏彦