テストがない、受験も偏差値も運動会もないフィンランドが「学力世界一」となった理由は?
公開日:2019/8/18
「中間・期末テスト」を廃止するなどの画期的な学校改革をした、千代田区立麹町中学校の取り組みが度々メディアで取り上げられている【関連レビューはこちら】。テストがないと勉強しなくなりそう…というのはいらぬ心配だ。改革は、単元ごとに繰り返し受けられる小テスト、担任制の廃止、生徒主催の体育祭など学校全体に及び、力ある生徒が育っているという。それにしても、「中間・期末テスト」をなくすというのはすごい。内申書、高校入試に繋がる部分だから、生徒たちの成績に対して自信がないと実行に踏み切ることは難しそうだ。
だが、「テスト廃止」は、都心の教育熱心な学校でしか実現できないのだろうか。今のところ、日本には麹町中以外の例がないので、世界規模で探してみると、小中校を通してテストがない国があった。それは、北欧のフィンランドだ。フィンランドには、高校卒業時の統一テスト以外、まったくテストがないという。勉強に熱意のない国なのだろうか? だが、『フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』(岩竹美加子/新潮社)によると、フィンランドの学力はとても高く、2000年代に入ってからは、国際学力調査(PISA)において1位をたびたび獲得しているそうで、教育熱心な国とのこと。本書から、詳しくフィンランドの学校事情を探ってみたい。
■学校の役割はとてもシンプルであるべき
フィンランドの教育が目指すのは、学力や偏差値を上げることではなく、「いかに学ぶか」を身につけ、創造的で批判的な思考で「自分独自の考え」を持てるようになることだという。フィンランドでは、さまざまな考え方を持ち寄って議論を行うことが、民主主義を進化させ国の発展に繋がると考えられているのだ。
この方針をもとに設立されているフィンランドの学校の果たす役割は、とてもシンプルだ。小中学校でやることは、外国語、数学、読解、科学、健康などの授業とビュッフェスタイルの給食のみ。入学式・卒業式や始業式・終業式、運動会・体育大会などの学校行事も一切なく、日直や掃除、給食当番もない。ちなみに、校則も制服もないし、置き勉(学校に教材や道具を置いておくこと)もOKだ。生徒は、好きな服を着て好きな鞄に筆記用具だけ入れて通学する。
逆に、日本にはない学科というものがある。それが宗教だ。国教(福音ルター派キリスト教とフィンランド正教)以外にも、カトリックキリスト教、ユダヤ教、イスラム教が学べるようになっている。なお、宗教クラスの代わりに「人生の知識」というクラスを選択することもできる。これは、政治学や倫理学に近いが、何かを覚えるというより、「私たちは、何を知ることができるか」「幸福になるためには、どう生きたらいいか」を考える授業だという。
■子どもが「自分の持っている権利」を学ぶ
日本で「義務と権利」について学習するというと、義務は強制、権利は建前のような比重で教えられがちだが、フィンランドの教育で特徴的なのは、子どもが保障されている権利をしっかりと教えることだ。
この権利は大きく分けると2つあり、1つ目は、自分は平等に扱われねばならないこと、2つ目は、成長に応じて自分は自分に影響を及ぼすことができるということだ。2つ目に関しては要するに、親や先生などの大人に、自分の身体・思い・時間を侵害されることは、不当だということになる。
子どもが負う義務には、学習義務があるが、これは学校に行く義務ではないので、家庭で学習する子も多いという。自分の持つ権利を理解した上で、困ったことが起きたら他の大人に相談していいことが明確になり、自尊心も高まるという。平等に関しては、フィンランドの国自体が、教育の無償化を徹底しており、学費も教科書代も給食費も発生しない。
フィンランドでは、兵役に加え、15歳から刑罰の対象となるなど、日本より社会に対する責任を若者が負わねばならない部分もある。だが、「学校のあり方」としては、子どもが個人として認められていて、強制的な一致団結や、大人の言うことが絶対という服従関係がないのが良い。テストどころか、「色々とない」フィンランドの学校がとても羨ましいと感じる大人も多いのではないだろうか。
文=奥みんす
この記事で紹介した書籍ほか

フィンランドの教育はなぜ世界一なのか (新潮新書)
- 著:
- 岩竹 美加子
- 出版社:
- 新潮社
- 発売日:
- 2019/06/14
- ISBN:
- 9784106108174
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