全米オープンテニス初戦突破! 大坂なおみのメンタルを世界一に導いた、極めてシンプルな行動習慣とは?

スポーツ・科学

更新日:2019/8/28

『心を強くする 「世界一のメンタル」50のルール』(サーシャ・バイン:著、高見浩:訳/飛鳥新社)

 人は誰しも心の回復力をもっている。昨年の大坂なおみの劇的な全米オープンテニス優勝からはや1年。そして今年全豪でグランドスラム2連覇を果たした直後の突然のサーシャ・バイン氏のコーチ解任から約半年。「この数ヶ月間苦しい経験をしてきた」とSNSに長文を綴った彼女は先日世界ランク1位に返り咲き、「試合中、また笑えるようになった」とTwitterでうれしそうにつぶやいた。

 この間、彼女がどのようにして自分の心を立て直したのかは知るよしもない。しかし大坂なおみを世界No.1に導いたサーシャの著書、『心を強くする 「世界一のメンタル」50のルール』(サーシャ・バイン:著、高見浩:訳/飛鳥新社)から、そのヒントのいくつかが見えてくる。

・「すべてが願い通りには進まない」と最初にあきらめておく

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 50のルールは、人の心の原理原則にもとづくアドバイスから始まる。

強いメンタルを手に入れるにはどうすればいいか。大切なのは、「この世には自分の力では左右できないことがあるという事実を認めること」だろう。

“諦める”という言葉は仏教では“真理を明らかにする”という意味をもつとされている。しっかりと現状を見つめた上で前を向く。サーシャはなおみに、もし相手にウィナーを決められて手も足も出ない局面に陥ったら、状況を素直に受け入れ“自分が悪いのではなく、相手がたまたま絶好調なだけ”と考えるように説いたという。他人をコントロールすることはできないが、自分の心は制御できる。テニスプレイヤーが感情をうまく処理して平常心を保てれば、コートの上での判断はより的確なものとなるだろう。

・完全主義を捨てる勇気

 これまでメディアが大坂なおみを語るとき、“完璧主義者”という形容がたびたび用いられてきた。サーシャも彼女は自分に完全であることを求めるタイプであることを知り、「完全主義者ではなくとも成功できる」というメッセージを伝えてきたと語る。人は誰しも完璧を目指しすぎると、理想と現実のギャップに悩んだり葛藤したりしてしまうもの。“ライバルをちょっとだけ上回っていれば大丈夫”という、おおらかなスタンスがメンタルにゆとりを与えてくれる。

・いつも心にプランBを

プランB、C、D、Eとたくさんの選択肢を持つに越したことはない。環境に応じて臨機応変に変えていくと結果につながりやすく、マインドセットも柔軟になる

 サーシャがなおみの思考の柔軟性に気づいたのは、昨年の全米オープンのサバレンカ戦だった。準々決勝進出をかけた熾烈な戦いの中の重要な局面で、とっさにアグレッシブな戦法に切り替えてマッチポイントを奪い、相手に大きなプレッシャーを与えることで流れを変えたなおみの決断力に成長を感じたという。どんな仕事においても、誰でもプランAまでは準備できる。しかしここぞという局面で、果たしてどこまで別の解決策を編み出せるだろうか。一度立てた戦略を変えるのには勇気がいる。しかしひとつの考えに固執せず柔軟に対処することで、ピンチは自力で打開することができるのだ。

■この先の未来にあるもの

 サーシャとなおみは2017年11月から2019年2月までのわずかな間に、めざましい成果を手にしてきた。それは決して“導いた教えが素晴らしかった”からだけではないだろう。本書を読むと、常に選手ファーストで献身的に最善を尽くすサーシャの姿勢が、人としてなおみの信頼を勝ち取ったことも大きく影響したのではないだろうかと思わされる。

 人間関係において互いに信頼関係を築くことはとても大切だ。信頼されたければまず先に自分が信頼し、“そこまでするか?”と思われても手を抜かずに努力を惜しまない。これはサーシャのコーチとしてのスタンスだ。エピローグで“この先また共に手を携える可能性はゼロではないと思う”と想いを吐露するサーシャ。いつかまた、ふたりに新たな未来が開かれることを期待したい。

文=タニハタ マユミ